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3月にさかのぼりますが、霞が関の中央合同庁舎4号館1219~1221会議室で24日(火)夕刻(18時~20時)に農水省主催で開催された「農政改革特命チーム第7回会合」に呼ばれて参加してきました。農政改革特命チームとは農業政策の抜本的な見直しに向けて、農政改革関係閣僚会議の下に設置された関係省庁の実務者(審議官、課長)や有識者による組織です(チーム長・針原寿朗農林水産省総括審議官)。農政改革関係閣僚会合は内閣府が2009年1月27日に設置した会議で、世界の食料需給が中長期的にひっ迫が見込まれ、国内農業の脆弱化が進むなかで、食料自給率の向上や国際化の進展に対応できる農業構造を確立するために、農業政策の抜本的な見直しを検討する会議です。http://www.maff.go.jp/j/nousei_kaikaku/index.html

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2008年は、バイオ燃料の世界的な普及や国際的投機マネーにより食料価格が高騰しました。また、経済成長の著しい中国やインド、ブラジルなど新興国の消費増大などにより世界中で穀物をはじめとした食料争奪戦が始まったとも言われています。今後は、経済力のある国であっても海外から食料をいつでも輸入できるとは限らない状況になりつつあります。それに伴って、食糧安全保障の問題(国民の食べ物を確保できるかどうか)が注目されました。日本は食料自給率が40%を割り込んでいるからです。

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同時に、昨年は日本の農業や食品の安全を揺るがす大きな問題が起きました。日本人の主食であるお米に関しては、価格維持のための減反政策と並行して海外産のお米を入れないために維持しているWTOによる高関税の代償(1994年~)として輸入されたミニマム・アクセス米のうち、農薬やカビで汚染された一部の輸入米が一般市場に流通してしまった事故米事件です。また、輸入された中国産の冷凍餃子から高濃度の残留農薬が検出された事件も起きました。

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それに加えて日本の農家は高齢化が進み、65歳以上が6割以上を占めていますから後継者不足も深刻な問題です。また耕作放棄地も、農地の約一割(埼玉県と同じ広さ)に達し、農地面積は609万ha(1961年)から467万ha(2006年)へと大幅に減少しています。環境問題や食の安全について言えば、日本の農業は農薬や化学肥料の使用量が他の先進国に比べると少なくないと言われています(日本の農薬使用量はアメリカ・フランスに続いて世界第3位だとか)。その意味では、環境保全型農業や有機農業の早急な拡大も重要なテーマだと思います。とにかく、日本の農業には消費者からより強い支持を受けるために、また小規模農家も大規模農家も農業を続けていけるように、やる気のある新規就農者や企業の参入(出資)などを迎え入れるために政策的にやれることがいろいろあると思います。

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農政改革関係閣僚会合は、河村建夫官房長官と農政改革担当相に任命された石破茂農水相が主宰し、鳩山邦夫総務大臣、与謝野馨財務大臣、ニ階俊博経済産業大臣に内閣府特命担当大臣(経済財政担当)を加えた6閣僚で構成し、首相の発言を受けて各閣僚は政府全体の取り組みとして議論を進めています。閣僚会合は6月を目途に、農政改革特命チームによる「農政改革の検討方向」の報告を受けて2009年の「骨太の方針」に反映させる方針だといいます。

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現場の関係者や当事者の意見を聞いて検討して、「農政改革の検討方針」を策定して閣僚会合に答申する特命チームのメンバーは、大内内閣官房内閣参事官(内閣官房副長官補付)、梅溪内閣府大臣官房審議官(経済財政運営担当)、鈴木総務省大臣官房企画課長、迫田財務省主計局総務課長、石黒経済産業省大臣官房審議官(経済産業政策局・地域経済再生担当)、針原農林水産省大臣官房総括審議官の6名です。アドバイザリーメンバーとして、大泉一貫氏(宮城大学大学院事業構想学研究科研究科長)、鈴木宣弘氏(東京大学大学院農学生命科学研究科教授、中村靖彦氏(東京農業大学客員教授)の3名が参加されています。
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特命チームでは、2月までに5回の会合を行い、第3回目までに地方公共団体、生産者、生産者団体、消費者、食品産業の各関係者からヒアリングを通じて農政の現状と課題について議論を行ってきました。その後、第4回(3月3日開催)の会合で、追加で流通関係者などからも意見を聞くべきだという意見が出たそうです。そこで、流通だけでなく有機農業等にも詳しい者として、有機・低農薬野菜と無添加食品の宅配会社、らでぃっしゅぼーや㈱に長年勤務していて、IFOAM(国際有機農業運動連盟)の国際理事も務めている僕にも意見を聞きたいという旨のご連絡をいただきました。

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この会合への参加依頼のメールを見た時は、なんというか話しの構えが大きいので正直少しビビりました。でも、環境保全型農業や有機農業を広げてそれに関わる生産者を増やしたい、有機野菜やオーガニック食品などのより安全な食品流通の発展を通じて消費者に強く支持される農業を広げたいと思ってこの業界で20年近く働いている者としては、その実現に向けて大きな影響力を持っている政策決定に関わる方々に、直接意見を伝えたり提案できる機会はめったにないと思い、ご依頼を受けさせていただきました。

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また、これまでの会議の議事録を読むと、生産者の高齢化に伴う後継者問題や消費者のニーズとのかい離など重苦しく難しい問題が山積していることが書かれていたので、自分が17年間関わってきた「らでぃっしゅぼーや」の取引先には、若手でやる気のある生産者が多く、元気な後継者がしっかり育っている点や、消費者の求める環境保全型農業や有機農業の拡大に貢献できているなどといういくつかの点で、未来に向けた明るい事例を紹介できると考えたことも依頼を受けた理由です。http://organic.no-blog.jp/weblog/2008/10/post_dc98.html

「特命チーム」の皆さんにお伝えしたかったふたつのテーマは①自分の研究テーマでもある約15年間でヨーロッパ(EU)の環境保全型農業や有機農業を大きく躍進させた政策「農業環境政策(環境直接支払い制度)」の導入と②リクエストのあった消費者のニーズにあった流通としての「有機・低農薬野菜と無添加食品の宅配企業らでぃっしゅぼーや」の事例紹介でした。プレゼンのために作成した資料は以下のふたつです。http://www.maff.go.jp/j/nousei_kaikaku/n_kaigou/07/pdf/data3.pdf「eu_agrienvironmantal_policy2.ppt」をダウンロード

【農政改革特命チーム第7回会合の参加者】
小田林徳次氏:全国農業機械士協議会 会長
門脇武一氏:㈱イソップアグリシステム 代表取締役社長
河合義雄氏:㈱ニチレイ取締役執行役員 技術担当品質保証グループ担当
久留原昌彦氏:㈱イトーヨーカ堂青果部セブンファーム開発担当チーフディストリビューター
吉村孫徳氏:NPO法人 阿蘇エコファーマーズセンター 事務局長
鈴木誠氏:㈱ナチュラルアート 代表取締役社長
郡山昌也:らでぃっしゅぼーや㈱ 環境保全型生産者団体Radixの会事務局
http://www.maff.go.jp/j/nousei_kaikaku/n_kaigou/07/pdf/program.pdf

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会合の当日はかなり緊張して霞が関の中央合同庁舎に向いました。参加者は全部で7人。早めに集合して、別室で事前の打ち合わせと発表者同士で名刺交換。それぞれの分野を代表するような方々で、自分がここにいてもいいのかなと一瞬思いましたが、逆にそんな人たちと同じ場で発言させてもらう機会はとても貴重なので、自分しか伝えられない内容を頑張って伝えようと思いを新たにしました。でも、意気込んで臨んだわりには発言は1人10分。短い時間しかないので、個人的に提案したかった農業環境政策の件は今回はなしということになりました(残念!)

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時間になって会議場へ移動。議論は公開だと聞いていたものの、驚いたことにマスコミ各社の記者さんをはじめ、大学の研究者や民間シンクタンクの研究員、メーカーや流通等の業界関係者など80名近い人たちが傍聴しているではないですか!会議室には事務局の農水省の職員の方を含めると約100名が入っていたことになります。用意したプレゼン用の資料はヒアリング(意見交換)する特命改革チームのメンバー以外に、傍聴者の皆さんにも配布されていました。そして定刻の18時に会合は始まり、順番に発表者による10分前後のプレゼンが行われました。さすがに、それぞれの分野で新しい取り組みで成功している皆さんの発表は聞き応えがあり、今後の農業や流通のあり方を考える参考になりました。発表の後は、各省庁の特命チームの方々からの質問も交えた全体での議論が行われました。この会議の内容は、発言内容(議事録)も配布資料も全部、農水省のサイトにアップされていますので、ご興味のある方はご覧下さい(第7回)。
http://www.maff.go.jp/j/nousei_kaikaku/index.html

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会議に出た感想ですが、まずは発表のための持ち時間が短いことが残念でした。もちろん、会議は時間が限られているから成り立つ訳ですが、全国各地から忙しい人たちがせっかく集まった貴重な機会だったので、2時間のテーマの決まった会議の後に30分だけでもフリーでディスカッションできる時間があれば、もっといろんな話ができて農政改革にも役に立つアイデアが生まれるのではないかと思いました。そして、様々なジャンルで注目される活動をされている人たちが一堂に会している訳ですから、そこでの参加者同士の議論や横のつながりから面白い取り組みが生まれる可能性もあるのではないかと思いました。

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個人的には、会議の後にアドバイザーの鈴木宣弘東京大学大学院教授に、発表できなかった「農業環境政策(環境直接支払い制度)」に関してのご意見をお聞きすることができました。そして、らでぃっしゅぼーやの活動を評価していただくと共に、そのような成功している企業の関係者が提案するなら、環境保全型農業や有機農業への補助金提案も説得力があるのではないかとうれしいお言葉をいただきました。また、石破大臣はヨーロッパの事例など積極的に取り入れる柔軟性があるからどんどん提案して下さいと言っていただき、とても励みになりました。