オーガニックブログ

カテゴリ: 国際会議

IFOAM OWC 2014-1

2014年10月13日~15日にトルコのイスタンブールでで3年に一度の「オーガニック世界会議(OWC)」が開催されました。テーマは「オーガニックの橋をかける」。主催は、IFOAM(国際有機農業運動連盟)。80カ国から約900人が参加しました。オーガニックのオリンピックともいわれる「OWC」では、世界中で広がっている最新の有機農業や栽培技術、オーガニック食品などに関する実践や研究(持続可能な農林水産業や畜産業、商品開発、流通、販売促進やマーケティング、政策)について、各分野のリーダーたちが集まり、世界中からの参加者たちと情報や経験をお互いに共有します。気候変動(地球温暖化)の緩和や生物多様性の保全にも貢献する、健康で安全でおいしいオーガニックは190万人の有機農家による約6.5兆円の市場に発展して、アフリカや南米、東南アジアなどの小規模農家による持続可能な開発にも貢献しています。

http://organicnetwork.jp/biz/archives/1673

IFOAM OWC 2014

【PGS(参加型有機認証)とCSA(地域支援型農業)が話題に】グローバル・オーガニック・ネットワーク(Global Organic Network:GON)の報告によると、会議では、「PGS」と「CSA」が話題になりました。 「PGS(Participatory Guarantee System):参加型有機認証制度」とは、地域に焦点を当てた有機農産物等の品質保証システムです。信頼や社会的なネットワーク、生産者と消費者の交流の基盤の上に、消費者の積極的な参加活動に基づいて、有機農業の生産者を認定するものです。1990年代から実施され、アメリカや南米、インド、アフリカなど開発途上国を中心に近年急速に広がっている取り組みです。コストのかかる第3者認証制度が利用できなかった小規模農家がこの認証によって地域の市場でオーガニックとして販売できるようになった成功事例が数多く発表されました。

http://organicnetwork.jp/biz/archives/1673

IFOAM OWC 2014-2
【よみがえれ!ふくしま 有機農業のつどい宣言】「CSA(Community Supported Agriculture):地域が支える農業」は、日本では1980年代から「産消提携運動」として続いてきた、ローカルなフードシステム構築の一端を担うものとして期待されています。なんと、お隣の中国では高学歴の若者が農村部に招聘されて就農することがトレンドとなっていて、このような若者が始めたCSAが50-100に上るといいます。会議2日目の冒頭には、福島原発事故を受けてもなお、有機農業に取り組んでいる「福島県有機農業ネットワーク」の菅野正寿さんが参加されました。そして、「福島メモリアルスピーチ」として、2014年8月に福島の集会で採択された『有機よみがえれ!ふくしま 有機農業のつどい宣言』を紹介。菅野さんの言葉は多くの感動を呼びました。 

IFOAM OWC GA 2014-1

この「OWC」に続いて10月16日~17日で開催されたIFOAMの3年に一度の総会(GA)。総会では向う3年間の活動計画や執行部である世界理事会のメンバーが会員の投票で決められます。総会には40カ国から約300人が参加。そして日本からは「福島県有機農業ネットワーク」の菅野正寿さんも参加されました。2011年福島原発事故を受けて、動議「IFOAMは反原発・再生エネルギー促進に向かって行動する」を提出して採択されました。http://www.food-trust.jp/document/doc/0071.pdf

1972年にフランス・ドイツ・イギリスなど欧州の有機農業団体の連合体として設立されたIFOAM。欧州や世界の民間の有機認証制度を作ることにより、消費者のオーガニック食品への信頼性を高めることを通じてオーガニック市場を発展させてきました。現在、世界のオーガニック市場は6兆円を超えて1980年代から成長を続けています。IFOAMは、世界117カ国に約800団体のメンバーを持つ有機農業に関する唯一の国際統括組織です。国連社会経済委員会(ECOSOC)の諮問資格を持つ国際NGOで、有機農業に関する国連の会議などで世界の有機農業運動を代表して発言してきました。以下は、今回の総会で選出された世界理事会メンバーたちです。

http://www.ifoam.bio/

IFOAM OWC-3

今回僕は残念ながら参加できませんでしたが、総会で長年にわたりIFOAMの活動に貢献してきた個人を表彰する「感謝賞(IFOAM Recognition Award)」について、ヨーロッパを代表するスイスの老舗シンクタンクの「FiBL(フィブル:有機農業研究所)」からの報告をシェアします。世界の有機農業やオーガニック市場の最新の統計データ『有機農業の世界』を1990年代から毎年集計して出版してきたFiBL。は、IFOAMと二人三脚でオーガニックの発展に貢献してきました。そのために必要なデータを世界中のオーガニック関係者から集めて編集してきた責任者のヘルガ・ウィラーに「IRA」が授与されました。http://www.organic-world.net/

彼女と一緒に表彰されたのは、IFOAM創設期からのメンバーで頑固なことで有名な(笑)フランス有機農業連盟(とIFOAMの農家組織グループINOFO)代表のアントン・ピンチョン。 

IFOAM貢献賞2014(村山さん)

スウェーデンを代表する有機農業体KRAV創設者で前IFOAM理事長のグンナー・ルンドグレン。オランダの開発援助機関で、IFOAMのアフリカなどへの有機農業を通じた開発支援にファンドを出し続けてくれているHivosのウィリ・ドウマ。初期の頃からの会員で、エチオピアの持続可能な開発研究所で活躍するスー・エドワード。そして日本からは、長年に渡って有機農業の発展に尽力してきたIFOAMジャパンの理事長を務める村山勝茂さんが表彰されました!皆さん、数十年に渡ってIFOAMのメンバーとして、また世界の有機農業の発展に貢献してきたことが認められての受賞です。参加した多くの古くからのメンバーたちに祝福されての受賞式は(僕は2011年の韓国での総会で経験)、オーガニック(有機農業運動/IFOAM)のファミリーの一員として、とても温かい気持ちになる素敵なものでした。以下は、大会に参加された村山勝茂さんによるレポートです。
https://organicnetwork.jp/pdf/IFOAM_OWC2014.pdfIFOAM 40th 0

【IFOAM40周年と「ボン持続可能性の日々」】
2013年は「緑の党」で挑戦した参議院選挙で忙しく、IFOAM関連の記事を更新できませんでした。2年前の話ですが、2012年に「IFOAMの40周年」の節目を祝うイベント「IFOAM 40th Anniversary Celebrations」が本部のあるドイツのボンで開催されました。そのイベントと並行して、ボン市との共催で「Bonn Sustainable days(ボン市の持続可能性の日々)」と銘打った国際シンポジウムが世界各国からゲストを迎えて11月23日~28日の5日間にわたって開催されました。もう2年前になりますが、以下にその様子を報告します。実は、このイベントの前にドイツ緑の党からハノーバーで開催された第34回党大会(11月16日~18日)に招待されていました。この様子は以前のエントリーで紹介しましたが、その後に1997年秋からお世話になっているフランクフルトのオーガニック(バイオダイナミック)ファーム、ドッテンフェルダー農場で数日間を過ごしてからボンに来ました。
http://organicgreen.blog.jp/archives/1013751409.html

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僕が有機農業では世界を代表する国際NGOである「IFOAM(国際有機農業運動連盟)」の世界理事を務めたは、2008年の夏から2011年の秋まで。その翌年に開催された歴史あるIFOAMの40周年に参加できて、本当にうれしかったです。IFOAMの本部事務所とドイチェ・ポストを会場に開催されたシンポジウムでは、有機農業の普及によってアフリカの飢餓を大幅に減らした功績などにより「世界食糧賞」を受賞者したバイオビジョン代表のハンス・ヘレン氏や、オーガニックでは老舗で定評のあるシンクタンク、FiBL(スイス有機農業研究所)の所長、ウルス・ネグリ氏ら専門家たちが登場(ウルスとは世界理事を同期として務めました)。今後10年間のオーガニックの更なる発展のために「有機農業は、ただの農薬を使わない農業ではなく、地球温暖化の緩和や生物多様性の保全にも役立つ、サスティナブルで持続可能な取り組みである」ことをもっと社会や消費者に伝えるための基礎になる文書の最終的な詰めを議論しました。 

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その文書「The Best Practice Guideline for Agriculture and Value Chains(オーガニック農業とバリューチェーンにおけるベストプラクティスのガイドライン)」の内容について、世界中から集まった研究者やメーカー、オーガニック流通企業の経営者など実務家が議論を交わしました。この文書は、IFOAMとその関係者たちによる「持続可能な有機農業に関する行動ネットワーク”SOAAN”(Sustainable Organic Agriculture Action Network)」が2年の歳月をかけて策定しました。各テーマでの説明を受けて、参加者が意見を述べます。発言者は「フィッシュボウル(金魚鉢)」という議論の手法で、周りをテーマに関心の高い参加者に囲まれて発言します。今回も世界中から長年オーガニックに関わっているあらゆる分野からの参加者が熱い議論を戦わせました。
http://www.ifoam.bio/en/organic-landmarks/best-practice-guideline-agriculture-and-value-chains 

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この文書には、農薬と土壌など栽培技術的なことだけでなく、使用するエネルギーのことなども規定されています。具体的には「最優良事例(ベスト・プラクティス)」として以下のことが示されています。『社会的側面:公平性と平等性』として「農家の適正な生活(レベル)、労働者の権利、ジェンダー(男女同権)、安全と衛生」。『エコロジー的側面:共通の資源と持続可能性』として「水、土壌と肥沃性、生物多様性、健康と動物福祉、大気(温室効果ガスと大気汚染)、エネルギー」。『経済的側面:流通から繁栄へ』として「投資、地域経済と経済的復元力、市場と流通、素材、汚染物質と廃棄物」。『文化的側面:創造性、革新性、統率力、利他主義および地域の安定と繁栄』として「個人の成長と地域の発展、食糧安全保障と食糧主権、製品の品質」。『説明責任の側面(透明性の高い行動、利害関係者の参加を促進)』として「全体論的経営、透明性と報告、参加」が定義されています。

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この中の「エネルギー」について規定されている文章の中で、「再生可能エネルギーを積極的に使う」ことは提起されていましたが、「原発」のことには触れられていませんでした。そこで僕は、2011年の福島原発事故を経験した日本から参加している者として、思い切って「原子力発電で作られたエネルギーはできるだけ使わないこと」という項目を追加することを提案しました。すると、この議論の責任者のディビッドが「マサヤが原発の提案をしてくれたけれど、我々は日本で福島原発の事故が起きたことは遠くで起きたこととして知っているけど、それがオーガニックセクター(農家と消費者)にどう影響しているか知らずにきた。サスティナビリティというからには知るべきことだ」と参加者全員に向けてしてくれました。そして参加者から「オーガニックと脱原発がつながった!」最近、原子力ロビーの巻き返しで原発を推進するような動きもあるけれど、「有機農業セクターとしては原発に反対するべきだ!」などと大きな賛同を得ることができました。これで、福島原発事故を契機にオーガニック業界を離れて、仲間たちと緑の党を設立して脱原発の実現のために奔走している自分が、この点でオーガニック業界に貢献できたことは、またとない幸せでした!
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11月25日には、バスで参加者のみんなとボン大学の実験農場へ。IFOAMと25年以上に渡って協力関係にあるボン大学有機農業研究所のウルリッヒ博士が、有機農業の最新の状況などを説明してくれました。ヨーロッパはもとよりアフリカやインド、アジア各国から来た参加者たちは、熱心に博士の説明に耳を傾けていました。
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IFOAMの本部は、国連キャンパスのすぐ近くにあるライン川沿いの公園の中にあります。その一角に、ドイチェ・ポストの本社ビルがあり、今回の「ボン・サスティナビリティ・デイズ」の会場としてセミナーホールを使わせてもらいました。そこでのセミナーは豪華ゲスト。エジプトの「砂漠の奇跡」と呼ばれる「SEKEM(セイケム)」の経営者ヘルミー・アボライシュ。 30年前には砂漠だった地域を、有機農業で緑の地域に変えたことでヨーロッパでは有名な会社です。その先進的な経営が評価されて、2003年には「もうひとつのノーベル賞」といわれる「ライト・ライブリフッド賞」も受賞しています。セイケムの製品は、オーガニックコットンをはじめ穀物や農産品など多種多様ですが、オーガニックの中でも老舗で評価の高い「デメター認証」を受けるバイオダイナミック(シュタイナー)農法と呼ばれる有機農業で栽培、生産されています。「これまで通りのビジネス(農業)じゃもうダメだ。」というプレゼンテーションも、偉大な実績を誇るヘルミ―が言うと説得力があります。

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会場からは「(所得の高いヨーロッパへの輸出だけではなく)なんで所得の低いエジプトで75%もの製品を販売できるようになったのか?」というもっともな質問が。ヘルミーは、①高付加価値の経緯で、利幅を圧縮してできるだけ一般の商品との価格差が少ないようにしたこと。②オーガニックというより「セケム」のブランド化に注力したことなどを教えてくれました。バイオダイナミック農業は別名シュタイナー農法ともいわれ、ルドルフ・シュタイナー博士が提唱した「人智学(アントロポゾフィー)」から生まれた農法です。子供とその芸術性を大事にするシュタイナー教育でも有名ですが、従業員を大事にしてその子弟や関係者のために大学まで設立するなどシュタイナー的な思想を背景に感じるセケムの経営方針について、いつかじっくり話を聞いてみたいと思いました。https://www.sekem.com/en/index/

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実は、今回の40周年イベントに参加できたのは、この1週間前にハノーバーで開催されたドイツ緑の党大会に招待してくれたベアベル・ヘーンさんを含めたドイツ緑の党の仲間たちのお陰でした。そのヘーンさんがIFOAM40周年イベントにスペシャルゲストとして来てくれたのもうれしいサプライズでした!しかも、ここボンが環境都市で有名なデュッセルドルフ(ケルン・ボン)を含む「ノルトライン・ウェストファーレン(NW)州」の一部だったこと。そしてNW州の(緑の党として初代の)農業・環境大臣がヘーンさんであったこと。そして、山奥の農場に併設されていたIFOAMの本部を、国際NGOの本部がひしめく国際都市ボンに移転するのを(国政レベルでオーガニックを推進したレーナテ・キュナスト元農水大臣と一緒に)サポートしてくれたのもヘーンさんだったことが判明して、びっくりするやらうれしいやら。ヘーンさんとのご縁の深さを改めて感じたイベントでした。

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ヘーンさんは、有機農業だけではなくオーガニック食品の流通(に伴う有機認証制度)が、どちらもオーガニック市場を伸ばすためには重要だから、その両方を(地域と国政レベルで財政的に)支援してきたことを報告。今後の提案として「太陽光発電など再生可能エネルギーとオーガニック」に関する会議をIFOAMと共同でやりましょう!と話していました。日本では、なかなか有機農業もオーガニック市場も成長していませんが、ドイツでは躍進しているオーガニックと、同じく緑の党がリードして急成長を続ける再生可能な「自然エネルギー」の会議をするなんて、もう羨ましすぎてため息がでてしまいそうです。でも、このグリーン経済の優等生でもあるエコロジーな2大産業を政策的にリードして急成長させてきたドイツ。こんなにいいモデルというか目標があるんだから、日本も頑張らないといけないと強く思った国際会議でした。
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IFOAM40周年の式典には、1972年以来の歴代IFOAM理事長たちも世界各国から参加しました。僕らが世界理事を務めた時の理事長は、キャサリン・ディマティオ(Katherine DiMatteo)。アメリカを代表するオーガニックトレード協会(OTA)事務局長も務めた実務派の素敵な女性です。様々な機会に、環境問題と有機農業を持続可能性(サスティナビリティ)というコンセプトで共に語る彼女のスピーチを聞いて感心&感動しました。現在は、アメリカのサスティナブルフードトレード協会の事務局長を務めています。一緒に写っているのは、ラウラ・モンテネグロ(Laura Montenegro)。アルゼンチンの有機認証団体ARGENCERTの代表で、彼女自身もベテランのオーガニック検査員でもあります。世界では、オーガニック業界でも女性が活躍しています。

http://www.sustainablefoodtrade.org/staff/
http://argencert.com.ar/sitio/

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ちなみに、最新の統計によると世界の有機農業家は2012年で約190万人。有機農業の面積は164か国で3千750万ha。世界のオーガニック産業の事業高は推定で約6.4兆円に到達!最も成長が著しいアメリカでは年10%もの成長をしているそうです(FiBL-IFOAMの2014年版統計より)。オーガニック貿易には、環境や開発に関していい面も悪い面もあるけれど、トータルでは断然プラスが上回ると信じています。日本でもドイツやフランスなど欧州諸国のように、政府が有機農業の支援やオーガニックの広報活動に関する費用を持つなど、財政的な支援ができる政治的な状況を早く作りたいと思っています。(以下のリンクから統計データが見られます)


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【Bonn Sustainable days 2012(ボン持続可能性の日々)】※映像
https://www.youtube.com/watch?v=p-cESYPFlqI

【IFOAM 40th Anniversary Celebrations(IFOAM40周年記念パーティー)】※映像
 内容:ボン市長のあいさつに始まり、長年に渡りIFOAMと協力関係にあるボン大学有機農業研究所のウルリッヒ博士による、有機農業は「生物多様性の維持と気候変動への対応に優れている」という有難いお話(笑)。そして、昔は地方の農場にあったIFOAM本部を国際NGOの本部がひしめくボンに誘致する援助をしてくれた、尊敬するドイツ緑の党副代表ベアベル・ヘーンさん(NRW州の元農業環境大臣)のコメントもあります!ドイツで躍進するオーガニック食品メーカー、ラプンツェル社とIFOAMが創設した「ワンワールド(オーガニック賞)」の紹介の様子なども。
https://www.youtube.com/watch?v=HirJaPKKpJU

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2014年2月15日に、明治学院大学でカナダから来日した環境運動家セヴァン・スズキの『Love is the Movement!「もっと経済成長?もっと消費?」から「しる・つながる・つくる」でユカイな未来へ』が開催されました。主催はナマケモノ倶楽部。通訳は、明学教授で『スローイズビティフル』の著者でもある辻真一さん。司会は前緑の党共同代表の高坂勝さんが務めました(photo by Hideaki Sato)。セヴァンさんは、1992年にブラジルのリオデジャネイロで初めて開催された国連の「地球サミット」で、子供たちの環境団体「Eco」を代表して環境問題に関する“伝説のスピーチ”をしたことで有名です。いまや2児の母親となった素敵な女性として「愛こそが地球を、次世代を担う子供たちを救う!」と訴えています。ゼヴァンさんとは、「リオ+20地球サミット(2012)」で初めて会いました。もう2年前になりますが、以下に参加したリオサミットの様子を報告します。http://www.sloth.gr.jp/events/sev0215/
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2012年6月20日~22日、ブラジルのリオデジャネイロにおいて「国連持続可能な開発会議(「リオ+20」地球サミット)」が開催されました。会場はリオ市街から約30kmほど離れたリオセントロです。会議のテーマは①「持続可能な開発及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済」②「持続可能な開発のための制度的枠組み」でした。会議の重要課題は「雇用・エネルギー・都市・食料・水・海洋・災害」。合意を目指した成果文書のタイトルは「私たちが望む未来(The future we want)」です。http://www.geoc.jp/rio20/about

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このサミットには、世界188カ国から首脳や閣僚などのリーダーや国会議員、政府関係者、国際機関や国際NGO、企業関係者など5万人が一堂に集まって、どうやってアフリカや南米など第3世界の貧困問題を解決し、社会的公正を実現して、環境保全を確保していくかを議論しました。僕は、このサミットに2008年から2011年まで国際理事を務めた国連社会経済理事会(ECOSOC)の公式な諮問資格をもつNGO「IFOAM(アイフォーム:国際有機農業運動連盟)」の代表団メンバーとして初めて参加しました。また、日本から参加した「リオ+20地球サミット連絡会」(事務局:環境パートナーシップ会議)の皆さんとも一緒に参加することができて、得るものの多い貴重な経験でした。
http://www.epc.or.jp/summit.item.12/yobikake.html
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【コパカバーナ・ビーチ】サミットの期間中は、あのリオのカーニバルでも有名なコパカバーナ・ビーチから歩いて5分ぐらいの好立地のベッド&ブレックファースの宿に泊まっていました。会場までは、毎朝専用のリムジンバスで約1時間程かけて通いました。リオのホテルはサミット特需で軒並み価格が暴騰。そして、数万人の参加者が一度に来たことから部屋がなかなか予約できない状況でした。でも、幸運なことに「リオ+20地球サミット連絡会」の事務局が押さえていた部屋を借りることができました。地元の小さい子供のいる家族が経営するB&Bはアットホームで、新聞には載らない地元住民ならではの現地情報や(ゴシップを含めた)国内政治の情報などが聞けて、面白かったです。
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【「リオ+20」の成果と課題】「リオ+20」の目的は、「持続可能な開発に関する新たな政治的コミットメントを確保すること」。また「1992年から20年間の進展と成果を確認し、積み残された課題を検証すること」。そして「新しく顕在化しつつある課題を扱うこと」でした。①の「グリーン経済」に関しては、地球規模のグローバルな課題として、(経済/財政問題、食糧問題、エネルギー/燃料、気候変動、生物多様性の損失、砂漠化、水問題、災害の多発/災害振興、不平等、貧困の削減)などの問題をどう解決するかが話し合われました。特に気候変動の問題は、いくつもの課題の原因にもなっている深刻な問題です(写真は本会議で演説をするフランスのオランド大統領)。
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【「持続可能な開発目標(SDGs)」については合意】会議では、開発途上国側の「グリーン経済」に対する懐疑的な見方が強く、最後まで先進国側との議論は噛み合いませんでした。議長国のブラジルは「グリーン経済」について、「持続可能な開発を進めることで貧困撲滅を実現する」経済として提案しました。でも「共通だが差異のある責任」を主張する開発途上国側は、「グリーン経済」に対する警戒心が強く、この環境と経済の好循環を実現する政策を議論するために、「グリーン経済への移行のための技術移転と投資と費用」を誰が負担するのか?その「指標の開発と有優良事例の提示」が必要であるなどと訴えました。この点では、欧州連合(EU)が金融危機のまっただ中で対応に苦しんでいたタイミングでもあり、先進国側から途上国へ十分な資金援助は確約されませんでした。②の「制度的な枠組み」については、「UNEP(国連環境計画)の強化」や「新しい組織の設置(世界環境機構)」などが議論されました。成果としては、「ハイレベル政治フォーラム」の設立(2013年)や環境保全や貧困根絶などの新しい目標として、「持続可能な開発目標(SDGs)」の政府間交渉のプロセスに入ることが確認されました。SDGsは、2015年以降の国連開発アジェンダに統合することが合意されました。
http://geforum.net/archives/452
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【最初の地球サミットから20年目】 「リオ+20」は、ブラジル政府が1992年にリオで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」 から20周年を迎える機会に同会議のフォローアップ会合をリオで行うことを提案したことを受けて、第64回国連総会(2009年)で決定されました。ブラジルのリオデジャネイロで初めて行われた1992年の地球サミットには、世界172カ国から約4万人以上が参加し「環境と開発に関するリオ宣言」や「アジェンダ21」が採択されて、「気候変動(地球温暖化)」や「生物多様性」などがその後に世界中で市民によって地球環境問題として取り組まれる端緒となり、各国政府による「気候変動枠組条約(UNFCCC)」と「生物多様性条約(CBD)」「国連砂漠化対処条約(UNCCD)」への署名も開始されるなど大きな成果を生みました。これらの条約が京都議定書、カルタヘナ議定書、名古屋議定書とつながりました。また、会議には世界各国の首脳や政府関係者に加えて世界中から多くの開発援助団体や環境NGOなど「市民社会セクター」が初めて参加。「地球市民(Global Citizen)の誕生」、「地球市民社会(Global Civil Society)の出現」という新たな時代の幕開けを感じさせました。
http://organic.no-blog.jp/weblog/2009/09/npo_6769.html
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【12歳の少女による伝説のスピーチ】 1992年の地球サミットでは、12歳の少女が伝説のスピーチをしました。冒頭にご紹介した有名なカナダの環境学者、デビッド・スズキ教授の娘でもあるセヴァン・スズキです。当時の世界のリーダーたちに「海や山などの環境を破壊して、それを元に戻せないなら、もう壊さないでください」というシンプルだけど真理を突いた本気のメッセージは、世界中に強い印象を残しました。そのゼヴァンさんも、2児の母です。セヴァンさんは、20年後に同じリオで開催された「リオ+20」にも参加。カナダの環境NGOが開催したサイドイベント「We Canada!」に登場しました。僕は、会場で有機農業と食の安全の問題(遺伝子組み換え作物)や緑の党などによるセヴァンさんの環境政治への関わりについて質問しました。(Photo by Think the Earth!)※セヴァン・カリス=スズキ/リオサミット「伝説のスピーチ(1992年)」
https://www.youtube.com/watch?v=N0GsScywvx0
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【20年後のサミットでの提案】セヴァンさんは、「リオ+20地球サミット」や冒頭に紹介した日本のイベントで以下のように話しました。「12歳の私は政治のリーダーに環境を壊さないでくれと伝えれば、きっと世界は変わると思っていました。でも、この20年間で世界の実質的な権力は政府から多国籍企業(コーポレーション)へと移りました。」「政治のリーダーも経済成長の呪縛から逃れて自由に動くことができなくなってしまいました(グローバル化した金融システムや貿易のルールなど)。世界のアジェンダを決めているのは多国籍企業です。だから変化は、政府や政治からは起こりません。それを起こせるのは、いまや私たち普通の市民です。」「人類に与えられた最強のツールは世代間を超えた愛の力です!」。20年の時を経て母親となったセヴァンさんのスピーチは、若者たちを鼓舞する魅力とパワーに溢れた素敵なメッセージでした。
「Love is the Movement ~セヴァンからのメッセージ(2014.2.11)」
https://www.youtube.com/watch?v=NofUzszUiIs
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【IFOAM(国際有機農業運動連盟)の代表団メンバーとして参加】IFOAMは、世界117カ国に約800団体のメンバーを持つ有機農業に関する唯一の国際統括組織(NGO)です。このサミットには、総勢20名を超す代表団を組んで「(持続可能な開発における)有機農業のメインストリーム化」というミッションを持ってアドボカシー(政策提案)活動を展開しました。キャッチコピーは「私たちが望む未来はオーガニック(有機農業):The future we want is organic」。以下は、40ページにおよぶ10日間のアドボカシー活動の一覧表です。「ifoam_activities_in_rio20_working_plan.pdf」をダウンロード
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アフリカや南米、インドなどでは、高い農薬や遺伝子組み換え作物の種子などの代金が払えず、自殺に追い込まれる農家が後を絶ちません。また、自分や家族の食糧を自給できず貧困に苦しむ農家が数億人もいます。有機農業は、高価な農薬や化学肥料、遺伝子組み換え作物の種子や苗を(大企業のモンサント社などから)購入する必要がありません。地域の生態系を活かす有機肥料を作り、肥沃な土壌を作り、天敵を使って病害虫を防ぎ、種を取って収穫します。写真は、インドの環境活動家ヴァンダナ・シヴァさんや開発援助団体の理事、有機農業を研究する農学者たち(有機農業でも高収量!)によるサイドイベントです。以下は「FAO(国連食糧農業機構)」で天然資源管理と環境部門の高官を務めるナディア・シアラバさんやヴァンダナ・シヴァさんたちのビデオメッセージです。
Messages to RIO+20 from organic stakeholders at BioFach 2012
https://www.youtube.com/watch?v=7R5_n0Epjtc
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【The taste of change】IFOAMは、政府関係ではUSDA(アメリカ農務省)の持続可能性担当部長、EU(欧州委員会)の国際局副局長兼農村開発局副局長、UNCTAD(国連貿易開発会議)の副事務局長、ブータンの首相や農水大臣などハイレベルなゲストを招いて、関連のNGOと協力して様々なサイドイベントを開催。有機農業が「グリーン経済(持続可能な開発と貧困の撲滅)」の優良事例のひとつであることを、参加した国際機関や各国政府の高官などにアピールしました。本会議が開催された初日の夜には、各国の政府関係者や国際機関、企業やNGO、農業の関係者を招待して、スイス政府と共催の「ハイレベルオーガニックディナー “The taste of change”」を開催。国連事務総長の「食料安全保障と栄養に関する特別代表」デビッド・ナヴァッロ氏や、アフリカ各国の農水大臣を招待。「リオ+20地球サミット」の事務局長の下で実務を取り仕切ったNo.2でエクゼクティブコーディネーターのエリザベス・トンプソンさんには、サミットの成果文書をまとめるに当たっての苦労などを聞きつつ、有機農業の有効性を訴えました。(写真は、歓迎のあいさつをする英国エマーソンカレッジの大先輩で、イギリスを代表する有機農業団体ソイルアソシエーションの理事長を長く務めたパトリック・ホールデン氏)
http://www.biovision.ch/en/services/medien/taste-of-change/ 
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このディナーのホストを務めたバイオビジョンのハンス・ヘレン氏は、世界の食糧の質・量・供給力の向上に大きな業績を残した人に贈られる世界食糧賞の受賞者で、農業界の「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」に相当する国際的な科学者の会議「IAASTD(開発のための国際農業技術評価)」の共同議長でもあります。彼は、アフリカで(高価で環境を破壊する農薬に依存せず)生態系を活かす天敵農薬を普及させることで数千万人が飢餓や貧困に陥ることを防ぎました。今回、多くの参加者や開発・環境系のNGOからは、「成果が少なかった」と言われたこのサミットですが、ハンスはこのオーガニックディナーやいくつものサイドベントで話をした各国政府の要人やグローバルなフードチェーンの関係者たちが「持続可能な農業(有機農業)が、気候変動を含めた地球環境を破壊することなく、世界の人たちに食糧を供給できる農業であることを推奨した」重要なステップだと語りました。また、ハンスは「リオ+20」サミット終了後に「最終的な決議文(The Fututre we want)」に、「持続可能な農業(Sustainable Agriculture)」という言葉が入ったことにとても意味がある」とも話していました。自然の循環を活かして(農薬や化学肥料・遺伝子組み換え技術に依存せず)生産性も上げることができる「有機農業」が最も環境に優しく、途上国の小規模農家にとっても持続可能な農業だからです。
http://www.biovision.ch/fileadmin/pdf/BV_MM7_Intvu_HH_EN_28.6.12.pdf


Rio20_5_017【ブータンの首相が「100%有機農業」を宣言!】今回、IFOAMが主催したサイドイベントのひとつにブータン首相のジグミ・ティンレイ氏を基調講演者として招きました。ブータンは、「GNP(国民総生産)」ではなく「GHH(国民総幸福度)」を国が目指す指標にしたことで注目されている国です。IFOAMはこれまで、ブータン政府と共催で開発途上国の持続可能な開発に有機農業が貢献できることを紹介する国際会議を開催してきました。写真はブータン首相とIFOAM理事長のアンドレ・ロイ、事務局長のマルコス・アーベントらです。「※山岳生態系における有機農業とエコロジー農業に関する国際会議」
http://www.ifoam.org/sites/default/files/bhutan_conference_program.pdf
そしてこの日、ブータン首相が国として持続可能な開発のためのアプローチとして「有機農業(オーガニック)100%宣言」を力強く宣言してくれました!このリオサミットでもオーガニックを主要なテーマにするべきだとも言ってくれて、有機農業の素晴らしいスポークスマンが誕生したと興奮してしまいました。
http://www.uncsd2012.org/index.php?page=view&type=700&nr=101&menu=237873c647.jpg

少なくとも僕の20年間の経験から、有機農業によるオーガニック市場へのアクセスを通じた開発途上国における「持続可能な開発」は(農薬や化学肥料や遺伝子組み換え作物(GMO)の使用を減らせるという意味で)、まさに「グリーン経済」だし、小規模農家の生計も改善されて貧困が削減されるといえます。このことは、一緒に3年間IFOAMの世界理事を務めたウガンダ有機農業連盟を率いた同僚、モーゼス・ムワンガが実際に証明しています。また、地域の有機資材を活用して地域の市場や自給用にも有機農業を導入することで、貧困を減らすことができると「FAO(国連農業食糧機構)」も認めています。そのことを、更にこの地球サミットで「貧困を減らすための持続可能な開発」の文脈でアピールできたことは、大きな成果だったと思っています。そんな「世界の食糧安全保障」と「グローバルな農業政策」の決定過程にIFOAMの一員として関われたことは、とてもうれしく誇らしい経験でした。写真は、一緒に本会議に参加した理事長のアンドレ・ロイとロバート・ジョルダン(アドボカシー担当)です。以下のリンクは、その詳細をまとめたパワーポイント(※英語)です。アンドレとロバートは、「リオ+20」のサイドイベントで、この内容を発表しました。IFOAM Advocacy for Climate Change and for RIO+20 (Power Point)https://www.soilassociation.org/LinkClick.aspx?fileticket=CDhBCo8wmJw%3D&tabid=17914043cfbb.jpg
【ピープルズサミットのシンポジウムにも参加】IFOAMのアドボカシー担当のロバートと今回の戦略パートナーであるバイオビジョンのハンス・ヘレンは、本会合だけでなくリオ市内で開催されたもうひとつのサミット「ピープルズサミット」で、ビア・カンペシーナ(農民への道:国際的な小規模農家グループ)が主催したアグロエコロジーに関するシンポジウムにも参加しました。ビア・カンペシーナ(La Via Campesina)は、中小規模の農業者による国際組織で、世界69カ国、約150団体によって構成されています。土地・水・種子および天然資源の保全、「食糧主権(Food Sovereignty)」、持続可能な農業生産を目的とし、ジェンダーの平等や社会正義を実現し、小規模農家の連帯と協力を発展させるために世界的なキャンペーンを展開しています。IFOAMは、開発途上国での有機農業の普及による飢餓や貧困の撲滅に最も貢献し、利益を得るべきなのは小規模農家であることを訴えました。
http://www.theguardian.com/global-development/poverty-matters/2013/jun/17/la-via-campesina-food-sovereignty
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【緑の党世界大会@地球サミット(グローバルグリーンズ@リオ+20)】僕は、大学卒業後3年ほど外資系企業で働いた後、1992年に環境団体「日本リサイクル運動市民の会(Nipon Ecology Network:NEN)」に入りました。各地でリサイクル情報の提供やフリーマーケットの開催、海外での環境問題への取り組みや環境NGO情報などを紹介する雑誌を発行するなど当時の環境団体としては、先端の活動(有機野菜などの宅配会社らでぃっしゅぼーやの運営も)をしていました。その「NEN」からも、(僕が入社する直前の)リオの地球サミットにスタッフを派遣しました。参加した同僚たちからは、世界中から参加した環境NGOなど市民たちが、政府関係者たちと同等な立場で環境政策の決定過程に関わっていたことを聞いていたので、それから20年後に開催された「リオ+20」にはどうしても参加したいと思っていました(写真はブラジル緑の党党首で下院議員のホセ・ルイス・ペンナ、緑の党国際局の足立力也氏らと)。
http://blogednamartins.blogspot.jp/2012/06/verdes-do-mundo-encaminham-propostas-de.html
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2012年2月に西アフリカのセネガルで開催された「緑の党世界大会@ダカール」に日本の緑の党国際担当として参加しました。この大会には76カ国から600人が参加しました。併設された「Rio+20フォーラム」(ハインリッヒ・ベル財団協賛)では、アジア地域の緑の党を代表して、「持続可能な開発に有機農業(オーガニック産業)が世界中で貢献している」現状について(IFOAMの元世界理事としての経験から)講演しました。これを聞いたフォーラムの司会者でブラジル緑の党の元環境省次官、リオデジャネイロ州議会議員(次期州知事候補)のアスパシア・カマルゴさんから「是非、ブラジルでも同じ話をして欲しい!」と言ってもらったことも、今回「リオ+20」に参加するきっかけになりました。1992年に環境団体に入ったばかりの新人が、環境NGOでも地球環境政策(国際政治)に関れるんだと知ってから20年。憧れていた伝説のリオサミットに参加できたことは感無量でした。「第3回緑の党世界大会@ダカール2012」http://organic.no-blog.jp/weblog/2012/04/gg2012_0229.html

第1回グローバルグリーンズ大会2001@豪州
https://www.youtube.com/watch?v=PBZZpGX36k4

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ブラジル緑の党が主催したサイドイベント 『緑の党世界大会@地球サミット(グローバルグリーンズ@リオ+20)』は、歴史あるリオ州議会議事堂(以前の国会議事堂)で開催されました。36カ国から100人近くが集まった会議では、先の4月にダカールで長い議論の末に採択された「リオ+20 サミットに関する決議」が改めて確認されました。会議では、参加国のグリーンズを代表して発言したフランス、豪州、NZ、ブラジル、アルゼンチンなどの国会議員に並んで僕も発言させてもらいました。檀上から「(野田首相による)日本の原発再稼働の問題と、それを政治的に阻止するためにも2012年7月に緑の党を設立します」とスピーチすると、うれしいことに参加者たちから大きな賛同の拍手をもらいました!ダカールで決議されたグローバルグリーンズの「グリーン経済」に関する決議案の策定過程には僕も関わらせてもらいましたが、南米やアフリカなど開発途上国の公正で持続可能な開発につながるものです。初めて参加した地球サミットに、そんな緑の党のメンバーとしても参加できたことをとてもうれしく思いました。写真は、豪州の上院議員ラリッサ・ウォーターズさんとニュージーランドのマックスウェル・ケネディ上院議員と)。※第3 回緑の党世界大会(ダカール2012)の「リオ+20 サミット(グリーン経済)に関する決議」http://midorinotable.sakura.ne.jp/pdf/%5bGG%5dRio+20.PDF
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【「脱原発」を主張した日本からの参加者たち】このサミットは、2011年に起こった東日本大震災と福島原発事故の翌年に開催されました。環境NGOなど市民社会セクターから参加者の多くは、この「持続可能な開発」をテーマに世界中の首脳が集まって議論する場で原発のことが大きな課題になることを期待していました。ところが、とても残念なことに結果的には原発のことはこのサミットの交渉課題には乗りませんでした。でもNGO関係者はサイドイベントなどで原発に関する多くの議論を行いました。日本からは、「福島県有機農業ネットワーク」の菅野正寿さんと高橋久夫さんがサミットに参加。福島原発事故の農業に対する影響や、それを受けた福島の農業の現状をジャパンパビリオンなどで本会合の参加者に報告していました。
http://www.farm-n.jp/yuuki/pdf/rio1.pdf
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【ビア・カンペシーナとも交流】菅野さんたちは、ピープルズサミットでも、地元の国際的な小規模農家グループ(ビア・カンペシーナ)とも交流しました。また「国連生物多様性の10年市民ネットワーク(UNDB市民ネット)」は、原発事故後に苦悩を抱えながらも有機農業を通じて地域の再生を図ろうとする福島の農家の声を紹介する冊子を作成し、本会議場やピープルズサミットで配布しました。また「メジャーグループ(9つのカテゴリーの主要組織:産業界、自治体、NGO、労働者、科学技術団体、女性、青年、先住民、農業)」のうち、女性とNGOグループは、日本からの参加者たちの働き掛けもあり、サミットの本会合スピーチで、原発が議論されないことへの批判を述べました。
http://www.csonj.org/activity2/fukko/rio_p20
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【脱原発の横断幕を掲げてアピール】 最終日、6月22日の9時から1時間、150ヶ国の首脳たちが厳重な警備の本会議場で「成果文書」に関する最後の詰めを議論しているすぐ横の通路で、日本のNGO有志が呼びかけて横断幕を張って「脱原発アピール」を行いました。このアピールを企画して国連の事務局に開催の許可を求めてくれたのは、「ネットワーク地球村」の高崎さんら。難航した交渉をフォローして支えたのは「国連生物多様性のための10年市民
ネットワーク」や他のNGOメンバーたちでした。福島の原発事故という世界的な大惨事があったにも関わらず、成果文書の議論でも、日本を代表して参加した玄葉外務大臣のスピーチにも原発のことが出て来ないのはおかしいだろうという想いから、また同日に日本の首相官邸前で行われた4万人のデモに連帯して「全世界の脱原発」と「大飯再稼働ストップ」を世界に向けてアピールしました。アピールでは「原発のない日本を、ブラジルを、世界を!」「子供たちのために、母なる地球のために原発のない世界を!」と声をあげました。朝一番の割にはけっこうな数のテレビカメラや各国のメディア、個人ブロガーやNGO関係者、政府代表団の参加者など多くの人が写真や映像、インタビューを撮ってくれました。うれしかったのは「見に来てくれてありがとう」とお礼を言うと「こちらこそ、大事なアピールをしてくれてありがとう!」と逆に(何人もの人に)お礼を言ってもらったことでした(Photo by Asahi Shinbun)。

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【グリーンピースの元キャンペーン部長もサポート!】僕は当日の現場のセッティングやアピールの進行サポート、朝日新聞などマスコミへの状況説明や通訳、他メディアからの取材対応など広報面のコーディネーションを担当しました。この朝、偶然にも会えたグリーンピースで長らくキャンペーン(アドボカシー)担当部長を務めた尊敬する友人のレミ・パーメンティアさんは、このアクションにとても共感してくれて、その場で知り合いの海外メディアなどに情報を拡散してくれました。うれしいことに、このことを聞きつけてドイツ緑の党連邦議会議員のウテ・コックジーさんも、駆けつけてくれました。レミさんは、政策コンサルタントとして、公海(外洋)における水産資源の保全に関するアドボカシー(政策提言活動)のために参加しました。この経験を通じて、小さくても自分たちが動いて声をあげることの大事さを感じました。
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【対抗するピープルズサミット】この政府間交渉の場である「リオ+20地球サミット」が開催されることに対抗して、6月15日~23日の期間、リオ市内のフラメンゴ公園で世界中
から社会運動、開発・環境NGO、先住民族などの市民社会セクター関係者が3万人も参加した「ピープルズサミット(Cúpula dos povos)」が開催されました。市内から車で1時間以上かかるリオセントロで開催された本会合にも、多くの市民がロビーイングやアドボカシー活動のために参加しましたが、それとは別に市民やNGOが主催の会議が開催されました。この市民社会セクターが主催する大イベントには、是非参加したいと思っていましたが、期待を裏切らない多様で活気に溢れるイベントでした。そして、このイベントの企画運営を手伝っていたロンドン経済政治大学院(LSE)時代の(日系ブラジル人の)友人にばったり会えたのもうれしい驚きでした。
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【その目指す世界像】ピープルズサミットは、反資本主義、、反家父長制度、反人種差別的な政治的枠組みを持った、地方・地域・世界レベルの苦しみに挑戦する歴史的なプロセスのひとつだといいます。その目的は、(自然環境を破壊し、収奪するこれまでの大企業中心の大量生産・大量消費の暮らし方に対して)自然という共有財産の商品化に反対する、世界中の市民が連帯して(環境に優しく、経済格差のない公平な)地球上での新しい生き方を提案することです。キーワードは「世界の再創造よ、来たれ!」会場では、 大小100を超すテントが張られて、様々なテーマに関するセミナーやシンポジウムなどが行われました。その中には、本会合のサイドイベントにも精力的に参加したヴァンダナ・シヴァさんなど有名な環境活動家による講演などもありました。
http://rio20.net/en/events/peoples-summit-for-social-and-environmental-justice/
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【グリーン経済は人道に対する罪!?】これまで紹介してきたようにサミットの本会合で提案された「グリーン経済」に対しては、ピープルズサミットに参加した環境NGOなど市民社会セクターの反応は、否定的なものでした。その象徴的な出来事が、南北アメリカ大陸5か国の先住民族たちが「リオ+20」が提唱するグリーン経済は「人道に対する罪」だと批判する宣言を発表したことです。これまで自然の循環を尊重し、一体となって暮らしてきた先住民の人たちにとって、グリーン経済は、これまで大企業が進めてきた「自然の商品化」を進める概念としか理解されませんでした。このことの意味を、世界の首脳や政治家たちはよく理解する必要があります。世界中から数百団体もの環境NGOや社会運動団体などが集まったピープルズサミットには、開催国ブラジルから20の先住民400人のほか、カナダ、アメリカ、コロンビア、ニカラグアなどから1200人もの先住民が参加しました。(Photo by Satoko Maeda)
http://www.afpbb.com/articles/-/2885632

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【リオ市内でグローバルデモ】世界中の首脳が「リオ+20地球サミット」に集まる公式会合初日の6月20日には、リオ市内で「リオ+20」に対抗する大規模なデモ行進が実施されました。参加者は、国際環境NGOのグリーンピースをはじめ、開発援助団体や農民団体「土地なし農民運動(MST)」などを中心に5万人を超えたそうです。歴史的にドイツなどヨーロッパから開発・環境NGOが早い時期から入って社会運動を進めてきたブラジルでは、市民社会セクターが、大きな役割を果たしています。その関係者たちが「Global Mobilization」(グローバルな動員:参加)を呼びかけたデモです。以下は、ブラジルの市民社会を代表するNGO・シンクタンク「ブラジル社会経済分析研究所(IBASE)」での勤務経験もある社会活動家の印鑰智哉(いんやくともや)さんによるピープルズサミット情報です。http://blog.rederio.jp/archives/853
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【地球サミットとピープルズサミット】ピープルズサミットでグローバルデモが行われた20日は、本会議場で各国の首脳たちが本会合での交渉を始める初日でした。この会議は参加者がかなり限られていたのですが、僕はなんとか本会議場に入れてしまったので、すごく参加したかった「グローバデモ」を逃してしまい本当に残念でした。一緒に日本から参加したメンバーは、このデモに参加してすごく楽しかったと聞いてとても羨ましかったです。それにしても、市民社会セクターが初めて参加した「伝説の地球サミット(1992)」から20年後にリオに帰ってきた「リオ+20」サミットで、市民社会セクターが「対抗のための大規模デモ」をぶつけなければならないという現実は、辛いものがありました。でも、それはこの20年間で世界の構造の何が変わったのかを象徴する事態だったのかもしれません。そのキーワードは「グローバリゼーション(経済のグローバル化)」「コーポレーション(多国籍企業による富の独占)」「新自由主義経済(1% vs 99%)」ではないかと思いました。(Photo by Satoko Maeda)
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【反核テントはその象徴?】具体的には、例えば「反核テント」があったピープルズサミットと、福島原発事故の翌年にも関わらず「原発問題」が公式課題に取り上げられなかったサミット本会合がこの意味を象徴しているのかもしれません。原発の問題は、日本では「原子力ムラ」という言葉が示すように、電力会社や原子炉メーカー、銀行や証券会社などの金融およびマスコミなどの大企業が政府(官僚)や政治家も巻き込んで、安全面でも経済的にも成り立たない、危険で事故が起きなくても核廃棄物などで環境を半永久的に汚染・破壊する原発を52基も建設・稼働させてきた問題です。セヴァン・スズキが語ったように、政策決定権のある政治家たちは、「原発マネーなどの企業献金や電力会社の労働組合による選挙支援などに依存している」ために、「市民の生命や安全・環境保全」などは二の次になってしまう訳です。これは、日本だけの問題ではなく国際金融資本や軍産複合体などの多国籍企業はアメリカを筆頭に各国の政治を動かす力を持っています。つまり、大企業の言いなりの政治家たちが進める「グリーン経済」は信用できないから、そのオルタナティブをピープルズサミットで市民社会セクターが提示したということです。
Rio20_7_117【ブラジルのダムと原発】社会運動家の印鑰さんによれば、ブラジルにはたくさんの「開発と環境」に関する問題があります。例えば、軍事独裁時代の1970年代に計画され、それ以来、長い反対の闘いが続けられてきた「ベロモンチダム」建設は、2011年に建設が始まってしまったそうです。熱帯地域での巨大ダムの建設は水体系の破壊、魚の生存環境の破壊などの問題が発生するといいます。また、原発の問題もあります。この「反核テント」には、ブラジルで原発反対運動に取り組む各地の運動の他、ウラン鉱山、核廃棄物の問題に取り組む人たちやチェルノブイリからの若者、日本からも福島県有機農業ネットワークの人たちが参加して、福島の事故の経験を共有しました。この反核テントは、「原発のないブラジルのための連合」のリーダーで、「世界社会フォーラム(WSF)」の創始者の一人でもあるシコ・ウィタケー氏が設営しました。シコさんは、ブラジル国内で原発の新設・稼働を憲法で禁止にするために、また世界的な原子力利用の廃止を求める活動を行っています。(印鑰智哉さんのTomo's Blogより)。http://blog.rederio.jp/archives/2333
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すでに2基の原発が稼働しているブラジルには世界6位とも言われるウラン鉱脈があり、30年ほど前からウラン鉱山開発が行われているそうです。ブラジル政府は、国内での更なる原子力開発をめざしていて、ウランの海外輸出も含めて生産増強を計画していますが、すでに廃鉱になったミナスジェライス州のウラン鉱山には秘かに使用済み核燃料が廃棄され、核汚染に周辺住民は苦しんでいるといいます。これらの問題は、ブラジル緑の党がリオ州議会議事堂で開催したサイドイベント 『緑の党世界大会@リオ+20)』でも、地元からの参加者たちが訴えていました。ブラジルにはこの他に貧困の問題もあります。リオの「ファベーラ(貧民街)」には、人口(約630万人)の約1/4が住んでいるといわれています。ファベーラは麻薬組織が占拠していて、日常的に強盗や銃撃戦が発生しているといいます。サミット期間中は、軍隊が出動して治安に当たっていましたが、それでも宿に戻るのが夜になった時には、かなり緊張して帰宅したのを覚えています。2014年6月にサッカーのワールドカップ。2016年にはオリンピックの開催を控えたブラジル政府は、この問題を解決するために軍や警察を総動員して麻薬組織の制圧を目指しているようです。
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【リオ+20地球サミットの成果】長すぎるブログになってしまいましたが、環境保全と貧困の撲滅を目指した政府間交渉である「国連持続可能な開発会議(「リオ+20」地球サミット)」に初めて参加した報告でした。そこで「グリーン経済」が提案されたのは、大企業の影響を強く受ける政府や政治の側でさえ、労働者を搾取して自然からも搾取するだけの「これまで通りの経済(Business as usual)」では立ち行かないことを理解しているからです。このままでは環境は破壊される一方だし、気候変動は激しさを増し、地球温暖化も進んで、大型化した台風やハリケーン、頻発する竜巻や大規模化する旱魃などによって最も影響を受けるのが農業で生計を立てているアフリカなど開発途上国の農家です。遺伝子組み換え作物(GMOs)とセットの除草剤などの農薬も、環境汚染と小規模農家の生存を脅かすと同時に先進国の消費者の健康も脅かします。もうひとつの環境と生命を脅かすビジネスの象徴が「原発」でしょう。
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【経済のグローバル化をどう規制するか?】世界的な寡占や独占を通じて強大化する多国籍企業。アメリカの国際金融資本やモンサント社などのアグリビジネス。日本の原発メーカーなどもそれに当たります。経済のグローバル化を通じて、大企業に有利な「新自由主義経済(ネオリベラリズム)」を世界中に押し広げることで、先進国と途上国だけでなく、先進国内での経済格差も拡大する一方です(1% vs 99%)。「ピープルズサミット」は、市民社会セクターがこの環境や社会的公正を凌辱する経済システムに対案を突きつけたイベントだったといえるでしょう。倫理に反する企業活動は、当然ですが厳しく規制されなければなりません。Renewableenergy
政策的に、この価値観に近い政治を行っているのが世界90カ国に広がっている「緑の党ネットワーク(グローバルグリーンズ)」だと思います。最も政治的な影響力があるドイツ緑の党は、2022年末までの「脱原発」を先進工業国のドイツで実現しました。1980年代に、「市民社会セクター(新しい社会運動)」がドイツで誕生させた緑の党。原発に代わって提案した太陽光発電や風力などの「再生可能エネルギー」は、30年をかけて世界で数兆円の産業となってドイツで約40万人の雇用を創出しています。有機農業によるオーガニック産業も、1980年代頃からヨーロッパをベースに発展を続けて、今では欧米を中心に世界で数兆円規模の市場と雇用を生み出しています。これらの実績は、緑の党のような政治勢力とグローバルな市民社会組織であるIFOAMやグリーンピースなどの国際NGOなどが、協力して創り出してきた「グリーン経済」と言えます。政治と行政、企業と市場、それらと市民運動が対抗するのではなく、協働してこの流れをさらに大きく育てていきたいと思った「リオ+20」地球サミットでした。長い長い報告を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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これも昨年の話ですが、11月7日(土)~8日(日)の2日間、国連大学と青山学院大学を会場に第2回「アジア連帯経済フォーラム」が開催されました。フォーラムには、フィリピン、韓国、インドネシアなどアジア各国をはじめ、欧米からも市民社会を代表するNGO/NPOや社会的企業、マイクロクレジットなどの社会的金融や社会的責任投資(SRI)、協同組合、コミュニティビジネス、フェアトレード、有機農業、国際連帯税などの実践者や研究者が集いました。日本の参加者と共に社会的な課題を解決しつつ、自立・共助できる経済であるアジアと世界の「連帯経済(Solidarity Economy)」について、熱心な議論が行われました。http://solidarityeconomy.web.fc2.com/index.html

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主催はアジア連帯経済フォーラム実行委員会。事務局は、アジア太平洋資料センター(PARC)が担いました。後援・協力は、Charles Leopold Mayer 財団 (FPH) 、CSR-SME(アジア社会的中小企業連合)です。以下のリンクに、呼びかけ人と賛同団体が紹介されています。第1回の「アジア連帯経済フォーラム」は2007年10月にフィリピンのマニラで開催されました。この時には、アジア各国から約100名、フィリピンから約600名が参加し、多様な経験の交流の場となったといいます。http://solidarityeconomy.web.fc2.com/forum2007.html
http://www.carta-responsabilidades-humanas.net/spip.php?article1661 (英語)

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主催者によりますと、今回の第2回「アジア連帯経済フォーラム」への国内からの参加者は約320人。海外からは18カ国約40人のゲストが参加しました。スタッフ・ボランティアの約60名を加えると、合計で420人以上の人が参加したということです。会場になった国連大学前では、フェアトレード商品やオーガニック食品、有機野菜の販売やアジア関連商品の販売ブース、国際開発NGOなど参加団体の展示を行う「連帯経済マーケット(絆市)」も開催されて、好天に恵まれた期間中は大勢の買い物客で賑わいました。

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ところで「連帯経済(Solidarity Economy) 」とは何でしょうか?聞き慣れない言葉で、最初にこの国際会議のことを聞いた時には、自分にはあまり関係のない集まりだろうと思いました。でも、最近よく耳にする「フェアトレード」、「マイクロクレジット」、「有機農産物による地場マーケット」、「社会的企業」などもその仲間だと知り、関心を持ちました。

「連帯経済」とは、市場原理に基づく利益最優先の経済の仕組みだけではない、人々が生きていくための助け合いや信用・信頼に基づく「命」を最優先にする経済の仕組みだといいます。この10年で、経済のグローバリゼーションが浸透し、貧困と経済的な格差が日本を含めて世界中で拡大しています。このような状況の中でも、利潤のみを追求する強力な市場経済に与しない多彩な営みが、ブラジルなどの南米諸国やアフリカ諸国、東南アジアなど世界各地で様々なレベルで模索・実践されているといいます。http://solidarityeconomy.web.fc2.com/aboutSE.html

例えば労働者・農民・消費者などの協同組合、地域の自助組織による福祉や医療、地域通貨、NGO/NPO、フェアトレードや社会的企業、マイクロクレジットなどの社会的金融や社会的責任投資(SRI)、協同組合、コミュニティビジネスなど、私たちの身近にも存在するこれらの草の根の経済活動の総体が「連帯経済」と呼ばれています(欧州では「社会的経済」という言葉が古くから使われています)。

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フォーラムの初日は、今回の実行委員会共同代表の北沢洋子さん(国際問題評論家)の挨拶で始まりました。最初のセッションは、『グローバルに広がる連帯経済』と題して、北米、カナダから「カナダ・ケベック連帯経済グループ(GESQ)」ビンセント・ダジュネ氏。EUからは「連帯経済フォーラム ルクセンブルグ09」のマルティーヌ・テヴォニオ氏。オーストラリアからは「ジョブ・オーストラリア」のディビッド・トンプソン氏などが、各国で広がっている連帯経済の発展の様子を報告してくれました。二日間にわたるプログラムは以下の通りです。
http://solidarityeconomy.web.fc2.com/forum2009.html

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次のセッションでは、『アジアにおける連帯経済―多様な実践をつなぐために』と題して、第一回のアジア連帯経済フォラーム2007の立役者でもあるフィリピンのベン・キノネス氏(CSRSME Asia)。蓄えた髭が立派なマレーシアのバイナリー大学社会的企業センター戦略的計画委員会委員長のデニソン・ジャヤスーリア氏。今回のアジアからの海外ゲストでは貴重な女性、インドの女性自営業者協会からイラ・シャー氏。 韓国の社会投資支援財団からはジャン・ウォンボン氏。そして日本からは、本フォーラム実行委員会共同代表で早稲田大学名誉教授(開発経済学)の西川潤氏が、各国の状況や実践の具体例を報告されました。

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僕は午後は用事があって参加できませんでしたが、セッション3では『連帯経済を促進するための社会的金融』というテーマで、「社会的金融と社会的経済」について、バーント・バルケンホル氏(ILO 社会的金融プログラムディレクター)。「EUにおける社会的金融 多様なアクターの連携とネットワーク」について、ビビアンヌ・ヴァンドミュールブルケ氏(INAISE:社会的経済における国際投資家協会)。「マイクロファイナンスの役割」について、ミコル・ピステリ氏(マイクロファイナンスインフォメーションエクスチェンジ:MIX)。そして最後に「日本における社会的責任金融」について、 河口真理子氏(大和総研経営戦略研究部長)からの報告がありました。

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最後のセッションは、『社会的企業の果たす役割』というテーマで、「フィリピンにおける社会的責任ある中小企業の可能性」について、ベン・キノネス氏(CSRSME Asia)。「日本における社会的企業 ワーカーズ・コレクティブの実践から」について、藤木千草氏(ワーカーズコレクティブネットワーク〈W.N.J〉事務局長)。「社会的企業を支える中間支援組織の役割」について、イ・ウネ氏(韓国・ともに働く財団)。最後に「日本の社会的企業の展開に向けて」大高研道氏(聖学院大学コミュニティ政策学科准教授)からの報告がありました。

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【連帯経済と社会的企業】とても天気のいい土曜日に開催された会議では、興味深い報告がたくさんされていました。最近は日本でもNPOやNGOで働くだけでなく、「連帯経済」的な社会貢献型の事業を通じて社会問題を解決する社会的企業で働きたいという若い人が増えているように聞きます。特に、「失われた10年」に就職で苦しんだいわゆる「ロストジェネレーション」世代などがその中心だと思いますが、その動きが実は広くアジアや南米、アフリカなど開発途上国だけではなくヨーロッパも含めた世界の動きとも連動しているのだと思うと国内の現象がまた違った風に見えてくるように感じました。

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2日目の会場は、国連大学の通り向かいにある青山学院大学。初日に討議されたテーマを具体的な5つのテーマ別ワークショップ(分科会)に分けて、より詳しい議論が行われました。そのテーマは以下の通りです。どの分科会も、その分野の第1人者が最新の情報を発表する魅力的な内容で、どれも本当に聞きたかったのですが、体はひとつしかないから全部には参加できずとても残念でした。分科会の会場となった教室はどこも満員で、若いOLさんから、サラリーマン、年配の方までが熱心に議論に聞き入っていました。参加者のなかにはそれぞれのテーマの実践者や研究者、ジャーナリスト、それに国会議員の姿も見えました。分科会のテーマは以下の5つです。
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A.社会的金融の可能性(グローバル・ローカルでの取り組み拡大に向けて) 
B.フェアトレードの拡大と深化(発展の歴史と現状) 
C.「いのち」のセーフティネットを地域で創る(福祉・介護・医療の現場から)
D.食と農の循環による地域の小さな経済づくり(持続可能な農業と町づくり)
E.国際連帯税(グローバル経済の規制と富の再分配)
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分科会Aのテーマは「社会的金融の可能性(グローバル・ローカルでの取り組みの拡大に向けて)」。コーディネーターは水口剛氏(高崎経済大学教授)。「社会的責任ある金融のこれからの広がり」について土谷和之氏(A SEED JAPAN理事)。「社会的責任ある金融のグローバルなネットワーク」について、ビビアンヌ・ヴァンドミュールブルケ氏(社会的経済における国際投資家協会:INAISE)。「日本発の途上国向け社会的投資のしくみ」について功能聡子氏(ARUN代表)。「貧困者の仕事づくりと社会的企業を推進する“社会連帯銀行”」についてパク・ムンボン氏(韓国社会連帯銀行 本部長)。「日本のNPOバンクの取り組み」について向田映子氏(女性・市民コミュニティバンク代表)が、それぞれの実践に基づいて報告しました。この分科会には、元環境庁長官で参議院議員(当時)の広中和歌子氏も参加されていました。
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今回、カンボジアなどアジアの開発途上国支援のための社会的投資ファンドARUNの活動について報告された功能聡子さんは、イギリス留学時代にLSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス:ロンドン経済政治大学院)で共に学んだ仲間です。その新しい形の「社会的責任投資(SRI)」活動は企業やメディアの注目を集めています。http://www.arunllc.com/

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分科会Bのテーマは「フェアトレードの拡大と深化」です。コーディネーターは、元日本国際ボランティアセンター(JVS)ラオス事務所代表で、東京経済大学教授の渡辺龍也氏が担当されました。最初に「ヨーロッパのフェアトレードの発展の歴史と現状-WFTO(連帯型)とFLO(認証型)の特徴と課題-」についてルディ・ダルバイ氏(CTM Altromercato/元WFTO代表)。「生産者から見た南北連帯としてのフェアトレード:その意義と課題」についてチャンドラ・プラサッド・カッチパティ氏(ネパール生産者団体"Sana Hastakara"代表/WFTO-Asia代表)。「日本とアジアの民衆交易―生産者組合と消費者生協の連帯」について上田誠氏(㈱オルター・トレード・ジャパン〈ATJ〉社 専務取締役)。「商品開発と消費者啓発:連帯の強化に向けて」について小野倫子氏(ピープル・ツリー広報マネージャー)が発表されました。http://www.peopletree.co.jp/

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1991年に設立された「グローバル・ヴィレッジ」は、開発途上国の環境と貧困問題について情報提供と啓発活動を行い、フェアトレードを推進するNGOだといいます。1995年にフェアトレード事業部門を独立させフェアトレードカンパニー株式会社を設立。2000年にブランド名を「ピープル・ツリー」としました。現地の開発プログラムを支援しながら、環境を害さない持続可能な新しい国際貿易のあり方を提案しています。 http://www.globalvillage.or.jp/index.html

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1986年に、フィリピン・ネグロス島の飢餓に対する援助団体として 「日本ネグロス・キャンペーン委員会(JCNC)」が発足しました。現地で生産されるマスコバド糖やバランゴンバナナ、エコシュリンプやオーガニックコーヒーなどの民衆交易のための会社として1989年にオルター・トレード・ジャパン(ATJ)が設立されました。らでぃっしゅぼーやも、創設当時からその活動を支援、参加してきました。
http://www.altertrade.co.jp/index-j.html

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このようなフェアトレード事業に取り組む社会的企業の成り立ちは、有機農業とオーガニック食品の流通事業に取り組む企業が、最初は農薬や化学肥料などによる環境問題を解決するための環境NPO/NGOとしてその活動をスタートしてきた歴史と共通するものを感じます。以下は、業界を代表するらでぃっしゅぼーやと大地を守る会のこれまでの活動を紹介したサイトです。
http://corporate.radishbo-ya.co.jp/20th.html
http://www.daichi.or.jp/anniversary/

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【有機農業とフェアトレード】今回のフォーラムのなかでは、この分科会が、いまの自分の仕事にある意味で一番近いように感じました。オーガニック食品市場も、有機農業で作られた原料を使う有機食品と一般の慣行農業で作られた食品との違いを消費者に伝えるための検査・認証に基づく有機認証制度による「有機認証マーク」を持っています。 この有機認証制度は、現在では世界各国で法律で守られた制度になっていますが、1970年代に有機農業運動が始まった頃は、民間の自主認証としてスタートしました。フェアトレード市場には、民間の認証制度による①商品へのラベリングと②フェアトレードを実践している会社を認証するふたつの仕組みがあると理解しています。それぞれに利点と問題点があるのだろうと思いますが、いずれにしても消費者にわかり易いコミュニケーションというか、表示やマーク、ブランディングはより多くの消費者にその意味(開発途上国の生産者支援)をわかってもらって買ってもらうためには重要なことだと思いました(※フェアトレード・ラベル・ジャパンのサイト)。http://www.fairtrade-jp.org/

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分科会Cのテーマは「いのち」のセーフティネットを地域で創る―福祉・介護・医療の現場から」。コーディネーターは北嶋信雅氏(日本生活協同組合連合会医療部会/アジア・太平洋地域保健協同組合協議会 事務局長)。「インドにおける貧困者への小規模保険(マイクロインシュアランス)」についてイラ・シャー氏(女性自営業者協会)。「高齢者大国・中国の選択とは?―福祉・医療の実態と課題」について沈潔氏(浦和大学総合福祉学部教員)。「韓国:地域通貨と医療サービス提供/貧困者へのケア」についてキム・ソンフン氏(韓国タンポポ医療生協)。「地域で行なう小規模な事業とセーフティネット」について香丸眞理子(特定非営利活動法人 アビリティクラブたすけあい前理事長)。「山形県での介護・医療の地域ネットワーク」について松本弘道氏(山形県庄内医療生協専務)。

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分科会Dのテーマは「食と農の循環による地域の小さな経済づくり」です。コーディネーターは、大江正章氏(コモンズ代表/アジア太平洋資料センター理事)。「地域のチカラ―食と農を結び、人とまちを元気に」について報告。「タイ:農村を軸とした地域循環型まちづくり」についてバムルン・カヨター氏(タイ「貧民連合」相談役)。「韓国:持続的な農を可能にするための運動と政策」について権寧勤氏(クォン・ヨングン:韓国農漁村社会研究会所長)。「インドネシア:農村における小さな事業と女性の力」についてイラワティ・ヘルマントヨ氏(Bina Swadaya:Self Reliance Development Foundation)。「ラオス:持続可能な地域開発とフェアトレード」についてボウハイコーン・スペングスサ(ラオ・ファーマーズ・プロダクツ)氏が発表。コメンテーターは、農林水産副大臣になった元農水官僚で衆議院議員の篠原孝氏でした。

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この分科会でのテーマ「食と農の循環による地域の小さな経済づくり」は、2010年2月に神戸で開催された、生産者と消費者の有機農業を通じた提携運動によるに関する国際会議「産消提携国際シンポジウム(地域がささえる食と農 神戸大会)」とつながりの深い内容でした。http://organic.no-blog.jp/weblog/2010/03/post_589d.html

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分科会Eのテーマは「国際連帯税―グローバル経済の規制と富の再分配」。コーディネーターは上村雄彦氏(横浜市立大学准教授)。「マネー資本主義をどう規制するか」について西川潤氏(早稲田大学名誉教授)。 「経済危機への対抗と国際金融改革」について高桂鉉氏(韓国・経済正義実践市民連合〈CCEJ〉政策室長) 「金融規制、富の再分配とグローバルガバナンス」について諸富徹氏(京都大学准教授)。 「国際連帯税実現に向けた世界、アジア、日本における取り組み」について上村雄彦氏が紹介されました(以下は上村雄彦さんも関わっている「国際連帯税を推進する市民の会(ACIST)」のサイトです)。http://www.acist.jp/

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【連帯経済とオーガニック市場】今回のテーマである「連帯経済」と自分の仕事とのつながりで言えば、有機農業はいまや世界中に広がってオーガニック市場はヨーロッパとアメリカを中心に約5兆円近いマーケットに成長しました。市場の発展は、アジアや南米、インドやアフリカなど開発途上国の有機農業に取り組む農家がこの市場にアクセスすることで売り先を見つけて農家たちの生活レベルを向上することにつながります。その点では、これも広い意味での連帯経済もしくはソーシャル・ビジネスと呼べるのではないかと思います。ただ、生産者が国際的なオーガニック市場に出荷するためには国際的な有機認証機関による検査・認証を受けなければなりません。それが、特に開発途上国の小規模農家にとって経済的な負担になって、この市場に参入できない生産者が増えてきているという問題も発生しています。

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この状況に対して、国際市場とローカルな市場の隙間を埋めるのが国内のオーガニック市場に向けて、消費者も参加する形で有機認証を行う仕組みを通じて有機農産物を地場マーケットに供給する「PGS(参加型認証制度)」の活性化です。このような地域に根差した有機農産物流通の仕組みは、現在インドや中南米、アフリカ諸国などで急速に広がっています。また、日本では1970年代から、地域でお互いに「顔のみえている」生産者と消費者が「提携」して有機農産物の生産と流通を支える仕組み(産消提携運動)を作ってきました。アメリカでは、この提携運動をヒントにした「地域が支える農業(CSA)」という仕組みやフォーマーズマーケットなどが広がって1700ものグループがあり、フランスでも1000に近づいているといいます。この「地域に根差した小さな経済づくり」に関しては以下の記事(地域がささえる食と農 神戸大会)をご参照下さい。
http://organic.no-blog.jp/weblog/2010/03/post_589d.html

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【国際貿易と連帯経済】また、オーガニック食品の世界的な貿易については、地球温暖化などのことを考えると二酸化炭素の排出につながる長距離の貿易は、フードマイレージ的に考えると必ずしもいいことではないかもしれません。でも、すでに多くの食品は世界中で農薬や化学肥料、遺伝子組み換え作物(GMO)に依存した環境負荷の大きい栽培方法で作られた原料で作られて貿易されています。それを、生産段階で二酸化炭素の排出が少なく、農薬や化学肥料による環境汚染を大きく減らすことのできる有機農業で栽培されたオーガニック食品に置き換えていくことは、農業と食品産業における総合的な環境負荷を減らすという意味ではメリットがあるのではないかと考えています。もちろん、自国の有機農業とオーガニック食品市場を発展させることが先決ですが、開発途上国で生産された有機農産物やオーガニック食品を近隣の経済的先進国が購入することは、広い意味でのフェアトレードといえるのではないでしょうか?

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「連帯経済」の好例に、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマンド・ユヌス氏のグラミン銀行によるマイクロクレジットの取り組みがあります。飢餓や貧困が大きな社会問題になっていたバングラディッシュで貧困層に対する低金利、無担保貸融資を行うことによって地域に根差した少規模な事業が育って、生活水準が向上することで貧困の削減に成功しているソーシャル・ビジネスです。http://59155480.at.webry.info/200901/article_2.html

今回、アジア連帯経済フォーラムに参加して、これからは各分科会で紹介されたような、人間や環境を大切にする連帯経済が開発途上国を中心にじわじわと世界中に広がっていく時代なのかもしれないと感じました。そして、自分が長年関わってきている有機農業やオーガニックビジネスの発展が「連帯経済」の発展につながっていることを確認できてとてもうれしく感じました。21世紀には、利益優先の人や環境を傷つける乱暴なビジネスではなく、社会的企業などによる人にも地球(環境)にも優しいオルタナティブな連帯経済が、もっともっと広がっていくといいなーと思いました。最後に、とても重要な国際会議の事務局を担ったアジア太平洋資料センター(PARC)の皆さん、お疲れ様でした。そしてありがとうございました!http://www.parc-jp.org/

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2010年2月20日(土)~21日(日)の2日間にわたって、地域における有機農業の生産者と消費者、流通の連携の可能性について考える国際会議「地域がささえる食と農 神戸大会」(産消提携国際シンポジウム)が開催されました。http://kobe2010.net/jp/index.html

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会場となったのは神戸学院大学ポートアイランドキャンパス。主催は「地域がささえる食と農 神戸大会 実行委員会」です。実行委員会形式による、1年以上の準備期間を経て開催された神戸大会の事務局は、兵庫県有機農業研究会が中心となって担いました。実行委員会の構成団体は以下の18団体です(以下は大会全体のプログラム)。http://kobe2010.net/jp/program/index.html

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【実行委員団体】URGENCI国際ネットワーク、(特活)兵庫県有機農業研究会、(特活)IFOAM(アイフォーム)・ジャパン、農を変えたい!全国集会関西地域ネットワーク、(特活)全国有機農業推進協議会、(特活)日本有機農業研究会、(特活)秀明自然農法ネットワーク、(特活)秀明インターナショナル、港区立エコプラザ、大地を守る会、(株)アファス認証センター 、(株)CDCインターナショナル、(特活)生物多様性農業支援センター、(株)ビオ・マーケット、(財)自然農法国際研究開発センター、らでぃっしゅぼーや(株)、生活協同組合連合会 コープ自然派事業連合、自給をすすめる百姓たち

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写真は、開会のあいさつをされる全国有機農業推進協議会の理事長で埼玉の霜里農場代表の金子美登(よしのり)さんです。メイン会場となった神戸学院大学ポートアイランドキャンパスの600人が入れる大教室は、満員のため座りきれずに立ち見の参加者も出るほどの盛況ぶりでした。主催者によると、来場者は海外15カ国から50名の参加者と関係者を含む約800名でした(以下は産消提携国際シンポジウムにて発表された神戸大会宣言です)。http://kobe2010.net/jp/sengen/index.html

※1月5日(火)に放映されたNHK「プロフェッショナル-仕事の流儀-」では、金子美登さんの40年間にわたる農場での取り組みが紹介されました。
http://organic.no-blog.jp/weblog/2010/01/post_9faa.html

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【シンポジウムの開催趣旨】
1970年代、消費者と生産者の「顔の見える関係」を基軸とする「提携運動」が日本で生まれました。「つくり手と消費者が互いにその役割を理解しあい、リスクを共有し、相互の連携を図ろう」という“提携の理念”は、多様性に富み持続可能で健康な社会をめざす世界の人々に支持され「CSA(地域が支える農業)」や「AMAP(家族農業を守る会)」、「ファーマーズマーケット」など様々な形で実践が広がっています。世界の食と農は今までコスト削減が重要視され、化学肥料・農薬・食品添加物の使用が慣行化してきました。また、つくり手である生産地と消費地の距離が大きくなることで、消費者の食べものとその背後に存在する自然環境や生物多様性などに対する興味や理解・参加意識が急速に失われてきました。

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この様な流れのなかで、農業・農村も様変わりし、中小規模の家族経営農家が衰退し、里山や生物多様性が失われつつあります。すべての人にとって食べものはいのちの源です。安全で安心かつ持続可能な農業には、消費者の理解と支援が必要不可欠です。今こそ、自分自身や大切な人の口に入る食べものをもう一度見直し、「なぜ地域(=自分自身)が食と農とをささえなければならないのか」「自分は、どのように食と農をささえていくことができるのか」を考え直す時であると考え、本大会を開催することにいたしました(写真は会場となった神戸学院大学ポートアイランドキャンパスの校舎)。

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【地域がささえる食と農 神戸大会の概要】初日の20日(土)は全国交流集会「第5回農こそ!コミュニティー」が開催されました。メインテーマは地域に根ざした「産消提携」など日本と世界のローカルフードシステムに関する取り組みの歴史と今後の方向性についてです。主催は、NPO法人 全国有機農業推進協議会と「農を変えたい! 全国運動」関西地域ネットワーク。二日目の 21日(日)には、ヨーロッパやアメリカで急成長しているという「CSA(地域が支える農業)」など世界の産消提携の動きを紹介する「産消提携国際シンポジウム(4th URGENCI International symposium)」が開催されました。
http://kobe2010.net/jp/program/program.html

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※URGENCI(ウージャンシー)とは:Urban - Rural Network: Generating new forms of Exchange between Citizens の略。2004年に結成された、地域連帯を基盤にした生産者と消費者のパートナーシップの国際ネットワークです。本部はフランスにあります。「家族(小規模)農業を維持・発展させる」「世界の地域(コミュニティー)の食料主権を確保する」「適切な食を通じて飢餓や栄養失調を克服し、人々の健康を促進する」「生産者と消費者、農村と都会の市民間社会的連帯ネットワークを発展させる」「環境および市民責任に関する教育を行う」「農村住民と都市住民の連帯を通じ、社会的弱者や貧困を解消する」ことを目的に掲げ、国際レベルでの情報交換や研修、生物多様性や責任ある消費活動への取り組み等を実践しています(以下は英語)。
http://www.urgenci.net/index.php?lang=en

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【地域がささえる生産者と消費者の連携】このシンポジウムでは、1970年代から各地域の生産者と消費者を有機農業で結ぶ「提携運動」を続けてきた日本を代表する有機農家や消費者団体、1980年代から広がった有機野菜などの「宅配事業」「ファーマーズマーケット」や「CSA(地域が支える農業)」などの取り組みについて、世界各国で実践を続ける第一人者が、神戸に一堂に会して語り合いました。写真は二日目のまとめセッション「つながる地域の食と農、そして共に生きる世界へ-Think globally, eat locally-」の様子。司会は、IFOAMジャパン理事長でURGNECI前代表の村山勝茂氏。パネラーは、㈱農林中金総合研究所の蔦谷栄一氏。槌田劭氏(使い捨て時代を考える会)。魚住道郎氏(日本有機農業研究会)。クリスティン・グレヂング氏(英国土壌協会)。サミュエル・ペイロット氏(前URGENCI代表)です。なお、二日間のプログラムは以下のリンクで確認できます。http://kobe2010.net/jp/program/program.html

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日本の有機農業は、地域の「生産者と消費者」が直接「提携」して、時には農作業を手伝うなど「お互いの顔と顔が見える」信頼関係のなかで「提携運動」として始まり、1980年代からは有機農産物の「宅配事業」なども広がりました。このような取り組みはいま欧米でも急速に広がっているといいます。アメリカでは「CSA(地域がささえる農業)」「ファーマーズマーケット」。フランスでは「AMAP(家族農業を守る会)」、箱詰めの有機野菜を届ける仕組み(宅配)は「ボックス・スキーム」(英)と呼ばれています。(以下のリンクは、シンポジウムの基調講演者であるエリザベス・ヘンダーソン氏が2002年に日本に提携農家を訪問した時の記事です)http://newfarm.rodaleinstitute.org/japan/features/200404/200404084JOAA/SJ_JOAA.shtml

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このように、様々な形態で世界各地で取り組まれてきた有機農業には、自然や環境など“いのち”を優先する考え方があり、行き過ぎた市場経済の下で疲弊した地域を再建するための重要な実践が含まれています。これらの経験を元に、有機農業を核として地域の環境破壊を食い止め、生物多様性を守り、自給経済を回復し、持続可能な仕事を創り出し、協同に基づいて地域をつくることを考えて行動している世界の有機農業に取り組む仲間たちと議論を深めたいと考えました。http://kobe2010.net/jp/int/index.html

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20日(土)の全国交流集会「第5回農こそ!コミュニティー」では、神戸大学名誉教授の保田茂氏による「有機農業の歩みと到達点」についての講演で始まりました。日本有機農業研究会を創設された「提携運動の父」である一楽照雄先生に師事されて、1970年代の農薬や化学肥料を扱うのは当たり前の世の中で、奇人変人扱いされながらも農協の講演で「農薬が危ない」話をされるなど想像を絶するご苦労があったと思います。でも、さすがに関西の先生は冗談もうまくて、苦難に満ちた日本の有機農業の歴史を聞きながらも、教室を埋めた聴衆からは何度も笑いが起きていました(以下とくしま有機農業サポートセンターによる講演メモ)。http://doragon-project.cocolog-nifty.com/yasai/2010/03/post-5889.html

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それに続いて今回の総会で新たにURGENCI理事長に選ばれたアンドレア・カローリ氏による「イタリアの事例紹介:市民と自治体の協働で広めささえる食と農」の基調講演です。アンドレアは、イタリアのミラノで「(社会に)責任を持つ消費者(Responsible Consumer)」による有機農産物や環境に優しい製品の共同購入団体「GAS」の活動を推進しています。「GAS」は有機農業の生産者、加工業者をネットワーク化し、消費者会員がボランティアで支える仕組みです。“責任ある消費者”による地域や環境への影響を配慮した持続可能な消費行動への変化が、社会の矛盾や環境問題を解決し得ると考えて「GAS」運動をイタリアに広げています。
http://kobe2010.net/jp/data/20_3.pdf (講演内容:英文資料)

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個人的には国際スローフード協会が、2年毎にトリノで開催している国際展示会「サローネ・デル・グスト」には何度か参加したことがありましたが、ファッションの街、ミラノでもこのような取り組みが進んでいるとは知りませんでした。ところでアンドレアとは、この日の夜に懇親会の二次会で一緒に飲みました。他のフランスから来たURGENCIの仲間と彼らが初めて入った三ノ宮の「おでん屋」で、お箸でおでんを突きながら、大地を守る会やらでぃっしゅぼーやのことなどを話したら、すごく興味を持ってくれて話がとても盛り上がりました。

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この後に「オーガニックで高める農の価値と社会貢献度-2020年に向けた有機農業ロードマップ-」というタイトルで中京短期大学准教授の小林富雄氏から報告がありました。

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「シンボリック事例発表」として、全国有機農業推進協議会理事長の金子美登氏から、 「“参加する”食と農:地域のささえ方提案」についての講演がありました。金子氏自らが40年をかけて創りあげてきた埼玉県小川町にある霜里農場を核とした「地域自給圏」モデルを、農商工連携、環境とエネルギーをキーワードに紹介しながら、これからの食と農を考える消費者への具体的な提案がなされました。それに続いて 三重大学教授の波夛野豪氏からは、自らの産消提携に関わる経験、そして調査研究の結果を踏まえて今後に向けた「地域がささえる食と農」と有機農業の展望を語りました。「有機の里、埼玉県小川町の霜里農場(大和田順子氏)」http://www.owadajunko.com/archives/2009/10/post_112.html

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午後には、国内外の多彩なゲストとともに、地域で実践する食と農について様々な視点で7つの分科会が開催されました。テーマは、①「地域連携(農商工の食べ物ネットワーク)」、②「食農教育(有機農業と子供たち)」、③「地域の担い手たちの挑戦(食と農の可能性)」、④「生物多様性を育む有機農業」、⑤「オーガニックマーケットにおける提携・PGS・認証」、⑥「種をめぐる自立(種子を農民の手に)」、⑦「パートナーシップ(生産者と消費者の連帯:提携・CSA・AMAP)」の7つです。この多様なテーマについて、海外のゲストも交えて議論を深めました。ゲストからは、インドやブラジルなどの開発途上国で広がっている小規模農家による「参加型の有機認証制度(PGS)」や、日本でも広がってきている「田んぼの生き物調査」の韓国における活動報告などもありました(以下は分科会の詳細)。http://kobe2010.net/jp/program/program.html#bunkakai

【⑤オーガニック市場における有機認証・提携・PGS(参加型認証制度)】
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僕も「オーガニック市場における認証・提携・PGS」の分科会でパネリストとして参加させてもらいました。個人的にはとても重要なテーマの分科会だったと思っています。進行役は日本有機農業研究会の久保田裕子さん(国学院大学)。参加者は、千葉で長年にわたって提携に取り組む生産者の山田勝巳氏がその経験を報告されました。また若島礼子氏(安全な食べ物をつくって食べる会 元代表)がそれをささえる消費者として、これまでの提携運動の実践について報告されました。http://kobe2010.net/jp/program/program.html#bunkakai5

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有機JAS認定協会に所属し、有機認証団体「アファス認証センター(AFAS)」を運営されている渡邊義明氏は、ご自身の提携から有機認証へと取り組みを進めた経緯について報告されました。アメリカで「提携(CSA)」に取り組むエリザベス・ヘンダーソン氏は、アメリカでの実例を紹介しながら「有機農業における社会的公正」というテーマで報告しました。世界的な経済不況の影響を受けているアメリカでは、CSAの取り組みのなかで、有機農産物への支払いが厳しい世帯が収入に応じて払う金額を調整する仕組みが検討されているそうです。

Pgsそして貧しい小規模農家でも参加できる「参加型認証制度(PGS)」については、インドで急速に広がっている実践例を統合農村開発研究所の事務局長、ジョイ・ダニエル氏が発表しました。簡潔でシンプルなオーガニック基準に基づいて、それを守ることを誓約するPGSでは、生産者は第三者認証にかかる費用と手間が要らないため、貧しい農家も参加できて収入が増えること。また地元の消費者が買える値段で有機農産物が販売できるとなどの成果が報告されました。280219f7.jpg
これに対して、これまで世界の有機食品市場の発展に大きな影響を与えてきた「有機認証制度」とEUのオーガニック市場の発展について、その基礎となる民間のオーガニック基準を1980年に作ったIFOAM(国際有機農業運動連盟)の活動について、私、郡山昌也が発表しました。http://organic.no-blog.jp/weblog/2008/09/ifoam_8e4d.html

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【オーガニック市場と提携・PGS・有機認証】
地域に根ざした生産者と消費者が「提携」し、お互いの「顔と顔が見える信頼関係」で結ばれた「提携システム」や「有機農産物の宅配事業」、「CSA(地域がささえる農業)」などの“クローズドマーケット”には、第三者による有機認証制度は特に必要ありません。その分、生産者は有機認証にかかる手間やコストを省くことができます。このことは結果的に有機農産物の価格を市況よりも安くできることができるので消費者の利益にもつながります。

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その一方で、有機認証制度は有機食品に対する消費者の信頼を得るために独自の有機基準を作った民間認証団体によって1980年代に欧州を中心に広がりました。その後、オーガニック市場の発展に伴い自然食品店や朝市、スーパーなど“オープンマーケット”での販売の際に発生した「有機食品の偽装問題」から消費者(と生産者)を守るために、第三者による「有機認証制度」が広がり、その後EU各国で法律で定められた制度になっていきました。1993年にはEUによるヨーロッパの有機認証制度が始まり、1999年には政府間機関の「コーデックス(国際食品規格)委員会」による「オーガニックガイドライン」が策定されました。日本では有機JAS法による有機認証制度が2001年から実施され、アメリカでもNOP(ナショナル・オーガニック・プログラム)が2002年に始まりました。その後、世界のオーガニック市場は大きく成長していきました(以下の地図は広がる世界各国のPGSの取り組み)。

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この実績からも、有機認証はオーガニック市場の発展には不可欠な制度だと言えると思います。しかし、それと同時に検査認証にかかる手間や有機認証料はインドを含むアジアやアフリカ・南米などの小規模生産者には負担が大きすぎて、その仕組みに参加できないという問題が起きていました。その対応として、最近注目されているのが「参加型認証制度(PGS)」です。分科会では、インドでの現場の実践が報告されましたが、IFOAMも世界各地で広がるPGSの発展に対して、各国の政府や国際機関に働きかけるなど積極的に支援しています。http://www.ifoam.org/about_ifoam/standards/pgs_projects/pgs_projects/index.php

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2日目の「産消提携国際シンポジウム」では、フランス・イタリア・イギリスなどヨーロッパ各国やアメリカでもここ最近、急速に広がっているという「提携」と共通の理念を持つ「CSA(地域が支える農業)」の展開について海外ゲストによる多彩な事例などが紹介されま した。フランスに本部のあるURGENCIからは前代表のサミュエルが、イギリスを代表する有機認証団体でもあるソイルアソシエーション(英国土壌協会)からはクリスティンが、ヨーロッパで広がるCSAや家族農業の現状について報告してくれました。イギリスではソイルアソシエーションが「地域を耕す」プロジェクトとして、アメリカの取り組みに近い形のCSAを立ち上げて支援もしているそうです。フランスでは、AMAP(農民農業を守る会)が1000軒以上も設立されて、カナダのケベックでは約3万世帯の会員を擁する団体もでてきているそうです。また、このような取り組みは先進国だけでなく、南米(ブラジル)、アジア(インド)、南アフリカなどにも広がってきているといいます。http://kobe2010.net/jp/program/program.html#guest

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2日目のプログラムは、アメリカを代表する「提携」実践有機農家、「CSA(地域がささえる農業)市民ガイド」の著者であるエリザベス・ヘンダーソン氏を招いた基調講演「世界のCommunity Supported Agriculture(CSA)」から始まりました。彼女は、1988年にアメリカのニューヨーク州ローチェスター郊外に「ジェネシー・バリー・オーガニックCSA」を立ち上げました。30年近くCSAを通じた有機農業の普及活動に取り組み、『CSA地域支援型農業の可能性-アメリカの地産地消の成果』(家の光協会)の著者でもあります。日本の提携運動をモデルにしたといわれるアメリカの「CSA」は、1985年に東海岸から始まって、今や生産者と消費者が連帯したCSA農場が全米に1700存在しており、10万人の消費者が関わっているといわれています。その多彩な実践の事例を豊富な写真と共に紹介してくれました。http://kobe2010.net/jp/data/21_2.pdf (日本語の要旨)
http://www.chelseagreen.com/content/elizabeth-henderson-the-world-of-community-supported-agriculture/ (英語の全文)

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それに続いて、世界の有機農業を代表する国際NGO「アイフォーム:IFOAM(国際有機農業運動連盟)」の副理事長を務めるアンドレ・ロイ氏による講演のテーマは「小規模農家の可能性と有機農業の広がり」でした。講演では、「小規模農業は、地域に食料を供給するのにより効率的であり、かつ地域コミュティに食料安全保障(自給)を確保できること。」「現地での生産と現地の市場を活用する小規模の有機農業システムは、世界の貧困を終らせる鍵であること。」「アジアやアフリカで広がっている農民の貧困や飢餓の問題を解決するためにも、小規模農家による有機農業生産が有効であること。」などが紹介されました。アンドレは、自身も長年にわたり有機農業に取り組んできた生産者で、現在はオーストラリア有機農業連盟代表でもあります。長年、アジアの有機農業を支援してきたアンドレは、IFOAMがこれから世界の小規模農家の支援に優先順位を上げて取り組んでいくことを報告しました。http://kobe2010.net/jp/data/21_3.pdf (英文の要旨)
http://organic.no-blog.jp/weblog/2009/05/ifoam_ecf6.html

これは、2008年の夏にイタリアのモデナのIFOAM総会で新たに選ばれた世界理事たちの総意でもあります(以下は2008年IFOAM総会のブログ記事)。http://organic.no-blog.jp/weblog/2008/08/ifoam_1311.html

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その証拠に、アンドレはこの直前までドイツのニュルンベルグで開催されていた世界最大のオーガニック展示会「BioFach(ビオファッハ)」の参加日程を半分で切り上げて「産消提携国際シンポジウム」に駆けつけてくれました。展示会を特別協賛しているIFOAM副理事長としても、オーストラリア有機農業連盟の代表としても、ヨーロッパで開催されている最も注目度の高い世界最大のオーガニック展示会は、ある意味で1年で最も重要度の高い場のはずですが、それを振り切っての参加でした(以下BioFachジャパン2009のブログ記事)。http://organic.no-blog.jp/weblog/2009/11/expo_2009_ec20.html

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またドイツでの開催が予定されていた2度目の「第17回IFOAMオーガニック世界会議2010」の実行委員会も神戸での開催に変更されました。3年に1度開催される世界で最も重要な有機農業に関する国際会議は、2010年 に韓国で開催されることが決まっていますが、アジアでは初めての開催です。日本や中国、インドを含めてアジアの有機農家のほとんが小規模農家です。次回のオーガニック世界大会では、「小規模農業システム(提携やCSA)」や「ショートサプライチェーン(距離の短い流通(宅配)」などが大きなテーマのひとつになります。その「IFOAMオーガニック世界会議2010」の実行委員長として、国立韓京大学教授の徐(スー)博士は、神戸大会の参加者の皆さんに熱く参加を呼びかけていました(以下は「IFOAMオーガニック世界会議2008」のブログ記事)。http://organic.no-blog.jp/weblog/2008/08/2008_9bfa.html

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その後のパネルディスカッションでは、「地域をささえるローカルフードシステム」と題して、インドや日本、フランス、イギリスなど各国の小規模農家による有機農業の実践に関する紹介がありました。インドからは「生産者と消費者が参加する有機認証システム(参加型認証制度:PGS)」を開発して実施していることについてジョイ・ダニエル氏の報告がありました。フランスのジェローム氏からは、フランスの「AMAP(家族農業を守る会)」の活動について。日本で1980年代から成長を続ける有機農産物の「宅配事業」については「大地を守る会」専務理事の野田克己さんから社会的企業を目指す取り組みなどについて報告がありました。またや2006年から東京の代々木公園で毎月開催しているファーマーズマーケットの取り組みについて「アースデーマーケット」事務局長の高橋慶子さんから、最近では固定のお客様がつき始めていることなどの報告がありました。司会は宮城大学の谷口葉子さんでした。

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それから「共に生きるつながりを求めて~提携の経験から~」と題したパネルディスカッションでは、淑徳大学の桝潟俊子さんの司会で、日本有機農業研究会理事で提携生産者の館野廣幸氏。秀明自然農法による提携活動を実践する生産者の中村三善氏。提携の消費者である「食品公害を追放し安全な食べ物を求める会」の北野多恵子氏。さらに提携の消費者を代表して「安全な食べ物をつくって食べる会」の若島礼子さんから、今後の「地域でささえる食と農」がどうあるべきかについての議論がなされました。この後に、前日の7つの分科会テーマからの提言を踏まえての講評が「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事の古沢広祐さん(国学院大学)からありました。

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そして、前日の分科会での議論を踏まえた「神戸大会宣言」が未来を象徴する地元、神戸の高校生によって英語と日本語で読み上げられました。http://kobe2010.net/jp/sengen/index.html

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最後に実行委員会を代表して大会実行委員長の橋本慎司さん(兵庫有機農業研究会・URGENCI理事)からのあいさつがありました。
『この度、世界中で「提携」や「CSA(地域がささえる農業)」を通じて有機農業に取り組む仲間を日本に招待する集まりを実現できて感無量です。日本では、2007年から有機農業推進法が実施されて、各地の「モデルタウン」を中心に有機農業の産地が全国に広がりつつあります。自分が有機農業に取り組んでいる神戸の丹波市でも有機農業推進協議会が設立されて、生産者を中心に行政や農協と共に有機農業生産者を増やすと共に、外からも積極的に若い新規就農者を受け入れています。産地の広がりに伴い、有機農産物の受け入れ先のマーケットの成長が不可欠です。そのためには消費者と生産者の相互理解を深めることが重要になります。

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そのためにも、また今回はURGENCI側の強い要請もあり、この神戸大会を開催することになりました。行き過ぎた市場経済原理に対抗し、家族農業経営を守り、地域社会の連携によって社会経済システムをつくっていくというURGENCIの精神は、有機農業推進法が成立した日本の有機農業陣営にとって有益であったと思います。また、今年9月に名古屋で開催されるCOP10(国連生物多様性会議)や、2011年韓国で開催されるIFOAMオーガニック世界大会に向けて、ウージャンシ世界大会が日本で開催される意味合いもあったと考えています。

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こうした経過と背景のもとに開かれたこの神戸大会が、時期を得たものであったことは、日本各地から、各界各層から集まった参加者が、会場から溢れるくらい集まってもらえたことで証明されたと思います。参加者の皆様には、有機農業を広めていくうえで、大切な考え方、進め方、提携・連携の仕方を学んでもらえたと思います。また、こうした共通の経験を通して、有機農業と家族農業経営と地域を守る運動がより大きな輪となって広がっていくことを期待しています。関係者、協力者の皆様、お疲れ様でした。また、本当にありがとうございました。』

以上のように実行委員長から参加者、海外ゲスト、大会関係者、協力者の皆様に対して厚い謝意が述べられました。これをもって、無事二日間の日程が終了しました(以下の写真はフェアウエルパーティでの参加者の様子)。

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【参加の感想】最後になりますが今回の神戸大会に参加させてもらった感想ですが、まずはフランスやイタリア、イギリスやインド、アメリカや韓国などの有機農業による提携やCSA、ファーマーズマーケット(オーガニックバザール)に取り組む海外の仲間たちの活動について、直接本人から聞くことができてとても興味を持ちました。同じ分科会で議論したエリザベス(アメリカ)やジョイ(インド)とは、偶然にも大会前日の夜に、三ノ宮の「本場のインド料理」に案内したご縁で、おいしい(超辛い)カレーを一緒に食べながら、親交を深めることができたのは貴重な機会でした。二日間の議論や交流を通じて、開発途上国と先進国と社会状況の違いに応じた、彼らの現場を是非実際に訪問してみたいと強く思いました。フランスやイタリアのURGENCIチームとは、「おでん」や会場の「学食」での交流を通じて、彼らの人となりを感じることができたことは大きな収穫でした。

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また長年東京を拠点に有機農業に携わってきた者として、関東と関西の有機農業に対する取り組み(条件)の違いを感じました。報告者の皆さんの話を伺って、関西における提携運動の歴史やその実践の深さと広がりを直に感じることができました。一方で東京を筆頭に神奈川や千葉、埼玉など大都市圏が広がるの関東は、その地域に暮らす圧倒的な消費者の数もあって、有機農産物やオーガニック食品の大消費地になっていると思います。関東でも、産地に近い地域では「産消提携」を実践されている農家の方や消費者もいると思いますが、多くの家庭は共稼ぎで忙しく、食品の購入には宅配を利用したり、近くのスーパーで買い物をする人が大多数です。もちろん、健康面で言っても「身土不二」と言われるように提携やCSAなどによる地域に根差した「地産地消」が本当は理想的だと思います。またCO2の排出量などを考えても、「フードマイレージ(食料の輸送距離)」も短く、「ピークオイル(石油資源の枯渇)」や「地球温暖化」などが叫ばれる時代には、環境問題への貢献という意味でも「提携」は優れた取り組みだと思います。ただ、大都市部に住んでいる多くの消費者にとっては、そういう取り組みに関わりを持ちたいと思ってもなかなか難しい人が少なくないと思います。

Inekari1980年代から1990年代にかけて都市部で有機農産物等の「宅配事業」が大きく成長したのは、このような背景によるものではないかと思います。20年以上にわたって、専門流通事業体といわれる有機(低農薬)野菜などの宅配会社の多くは、有機農業を拡げるためにできるだけ生産者と消費者をつないで「顔と顔の見える関係」を作る努力をしてきました。定期的に会員向けの情報誌を発行したり、消費者である会員が生産者の産地がある地域を訪れる「産地ツアー」を全国で数多く開催してきました。また、契約生産者に対しては、有機農業の栽培技術の向上ための勉強会や技術交流会を全国各地で長年にわたって開催してきました。契約栽培による長年にわたる安定した取引は、生産者の農業経営を安定させて、有機農業への専念を可能にします。ある生産者がこの仕組みを「民間による(有機農産物の)価格保証制度」と呼ぶのを聞いたことがあります。

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これらの「地域と都市の交流」の取り組みは、全国の生産者団体の成長(多くの若手後継者が育っています!)と共に地域の活性化にもつながっています。その意味では「宅配事業」が日本の有機農業の発展に果たしてきた役割も小さくないと考えています。そして今回の神戸大会を、有機農産物の宅配事業を含む有機農業関係者も参加して開催できたことの意味は大きいと思っています。申し訳ないことに、個人的にはあまり実行委員としての貢献はできませんでしたが、準備期間を通じて、これまであまり交流のなかった提携運動の大先輩たちと会議などでご一緒させていただいたり、分科会を作っていくなかで、多くのことを学ばせていただきました。

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【今後の課題】今回のシンポジウムではあまり議論されませんでしたが、「提携」も「宅配」にも参加できない消費者に対して、どのようにして有機野菜やオーガニック食品を拡げていくかも大きな課題だと考えています。そういう消費者が有機食品を買えるのは、近くの自然食品店やスーパーなどの店頭ということになります。ただ、日本の場合、有機野菜やオーガニック食品の品揃えはヨーロッパやアメリカに比べるととても少なく、生産量も少ないので値段もこなれているとはいえません。“オープンマーケット”でのオーガニック食品市場はまだまだ小さいのが実情です。一番の大きな問題は、①一般の消費者に「有機農業やオーガニック食品のよさや価値(安全面や健康面に加えて環境面での貢献など)」が十分に知られていないことだと思います。有機野菜やオーガニック食品に対する“力強い十分な需要”がまだ存在していないのです。スーパーなどでの乏しい品揃えがそれを反映していると思います。繰り返しになりますが、多くの消費者が多少は値段の高い有機野菜やオーガニック食品でも「健康と安全、環境のことを考えたら“有機はけっして高くない”」と思って買ってくれる状態を作り出すことが急務だと考えます。これは地域(提携)の発展にもつながります。

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それに加えて、②欧米のような有機農業に取り組む生産者に対する政策的な支援がまだありません。自然循環を活用して、農薬や化学肥料を使わない有機農業は土壌や地下水を汚染しない分、環境を保全しているといえます。ヨーロッパや韓国では、1990年代から有機農業に取り組む生産者に対して農業環境政策の下「環境直接支払い」という制度を設けて、補助金で支援してきました。その効果もあり、有機認証を受けた農場が、EUで全農地の約4%(畜産用の牧草地を含む)、韓国でも約0.5%を占めるまでに成長しています。http://organic.no-blog.jp/weblog/2009/09/2007_a4df.html

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「提携」や「宅配事業」などの“クローズドマーケット”に参加している生産者は、第三者による有機認証が必ずしも必要ではないため、認証を取らない生産者も少なくありません。そのため、日本の有機認証を受けた農地は全体の0.18%(2008年)で、手間とコストがかかり、規制も厳しい割には経済的に報われることの少ない有機認証を受ける農家は横ばいか減る傾向にあります。これは大きな問題です。

ただ、有機認証を必要としない「提携」の場合でも(消費者の高齢化などで)消費者の数が増えない場合、余剰分の農産物を有機農産物として(スーパーなどへ)販売しようとすると有機認証が必要になるといいます。その意味では、「提携」に関わる若手の新規就農者を増やしていくためにも、有機認証を取ることが(行政からの支援策の導入を含めて)経済的にも、遣り甲斐的にも報われる状況に少しでも早くしていく必要があると思います(写真はNY州のエリザベスのCSA農場)。

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安全で健康にも環境にもいい割にはまだまだ小さい存在でしかない「有機食品によるオーガニック市場」と有機農業を広げるためには、様々な消費者の必要に合わせて「提携」も「宅配事業」もスーパー等での「店頭販売」も、もっともっと伸びる必要があると思いますし、(海外の先行事例を見れば)その余地は十分にある考えています。生意気かもしれませんが、そのために必要なことを、今回の国際シンポジウムでの出会いを活かして海外の仲間や大先輩たちの経験に学び、(有機JAS制度の見直しを含めて)官民の知恵と力を合わせて一歩ずつ実現していきたいと思っています。最後になりましたが、神戸大会を支えて下さった多くのボランティアの皆様、実行委員会の皆様、ならびに事務局を担っていただいた兵庫有機農業研究会の皆様、本当にご苦労様でした。

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明日から連続で3つのオーガニックの会議や展示会に参加してきます。ひとつはアジア・環太平洋地域のオーガニックの未来を作っていくための「オーガニック・アジア」会議。会場はマレーシアのサラワクです。インドや中国、台湾や韓国、フィリピン、タイ、ラオス、ベトナム、マレーシア、インドネシア、オーストラリア、アメリカ、スイス、イタリアなどの国からも参加します。経済的にも発展を続けるアジア地域は、ヨーロッパ、アメリカに続いてオーガニック産業の発展が期待されている地域です。いま、オーガニックの波はアジアに来ています。この会議は、サラワク州政府、UNCTAD、FAO(ITF)、それにIFOAMの後援です。この時期はまだ海で泳げる?とのことなどで、余裕があればボルネオ島の自然も楽しんできたいと思います。 http://www.ifoam.org/events/ifoam_conferences/Sarawak.html

Ifoam_history_35_2 一週間後には帰国しますが、そのすぐ後にドイツのIFOAM本部(ボン)で開催されるIFOAM世界理事会議に初めて参加してきます。世界中のオーガニックセクターの代表者たちから選ばれた世界理事(World Board)たちによる、世界のオーガニックムーブメントの方向性を作っていく重要な会議です。実は、昨年の今頃もIFOAM本部でメディアフェローとして広報関連の仕事をしていたので、またあの仲間たちの待つ場所に帰れてうれしいです。2度目のボンでの誕生日は、オーガニックなケーキでお祝いしてもらえるのでしょうか? それともオーガニックワインとビール?

40_jahre_dotti_klein 会議の後には少し日程があくので、10年前に研修させてもらったフランクフルトのオーガニック農場に遊びに行ってきます!当時いた人たちもまだいるみたいで、10年ぶりの里帰りがとても楽しみです。「デメター(豊穣の女神)」の認証マークで知られるバイオダイナミック農業のセンターでもあるドッテンフェルダー農場。今年で40周年を迎える歴史あるオーガニック農場です。僕のオーガニックの旅は、1997年の秋にここから始まりました。
http://html.dottenfelderhof.de/

Menoplogo_2 そして、最後は世界の富が集まるというアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されるオーガニックEXPO。ヨーロッパでは観光地としても知られる、最先端の建築物がすごいというドバイに初挑戦です。オーガニックに国境はない?オイルマネーによる好景気に沸く彼の国で、世界各地でエコビジネスとしても成長を続けているオーガニックビジネスの息吹を感じてきます。
http://www.globallinksdubai.com/

【地球温暖化と有機農業】
Logo_iaastd現在、ヨーロッパではオーガニックが環境問題のなかでも気候変動に貢献できることがかなり広く議論されています。しかも世界銀行、UNEPなどの国連機関がスポンサーで、「農業界のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)」と言われる「IAASTD(開発のための農業科学技術の国際的評価機関)」は、この4月の会議で環境汚染の原因となる農薬や化学肥料、遺伝子組み換え作物(GMO)に依存する慣行農法よりも、有機農業のほうが環境負荷の削減や、アフリカなど小規模の自給農家にとって経営効率的にも有効であるという画期的な評価を下しました。http://www.ifoam.org/press/press/2008/IAASTD_plenary_meeting_20080409.php

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このことは、モンサントやカーギル社などの多国籍農薬・GMO企業に、有機農業団体や環境NGOが勝利した歴史的な決定と言われています。2006年にはFAOも有機農業の有効性を認めています。ちなにみオーガニック・アジアには、UNCTAD(国連貿易開発会議)の気候変動担当者とIPCCの前会長でもあるIAASTD事務局長Robert Watson教授も参加します。 http://www.organic-asia.blogspot.com/

せっかく海外に行くので、日本ではまだあまり知られていない事実や情報にたくさん触れてきたいと思います。見てきたものは、またご報告します。それでは行って来ます!

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