オーガニックブログ

カテゴリ: 欧州オーガニック

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前回のエントリーで、世界の国際NGOの政策提言活動について、その概要を紹介しました。今回は自分が経験したひとつの具体例をご紹介します。もう2年近く前の話になりますが、2007年の秋から2008年の2月まで、ドイツのボンに本部のある国際オーガニックNGO「IFOAM(アイフォーム:国際有機農業運動連盟)」で広報やマーケティングを担当するメディアフェローとして勤務しました。そのときに参加したブリュッセルで開催された国際会議について報告します。

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2007年12月4日・5日の2日間に、ベルギーでIFOAM・EUグループが主催する第1回「ヨーロッパオーガニック会議」(ハインリッヒ・ベル財団後援)が開催されました。会議のテーマは『EUの共通農業政策(CAP)におけるオーガニック食品と有機農業の未来』で、サブタイトルが「ヨーロッパのオーガニック行動計画の再検討と将来展望」です。この会議は、EUの共通農業政策(CAP)を含む農政全般の責任者、欧州委員会のマリアン・フィッシャー・ボエル農業・農村振興局委員(農水大臣)をはじめ、欧州委員会の政府高官や欧州議会議員らが多数参加しました。この会議は、2007年の有機農業運動における最も重要でハイレベルな政治的イベントとして開催されました。
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【欧州オーガニック会議2007の参加者】
ベルギーの老舗ベッドフォードホテルを会場に開催されたこの歴史的なヨーロッパのオーガニックセクターにおける最大規模の会議は、IFOAM(国際有機農業運動連盟)のEUグループによって開催されました。会議には、EUで中心的に活動している有機農業団体の代表者をはじめ、欧州委員会や欧州議会の政府高官や農業大臣、EU加盟国の関係官庁や関連機関、各国の国会議員、環境NGOや労働組合、消費者団体、食品加工メーカー、流通企業、有機認証団体、それに有機農業生産者など幅広い分野の関係者など約300人が参加しました。

【欧州の農業全般への政策提言活動】
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現在、(定期的な)中間見直しが行われている「CAP(農業環境政策)」のヘルスチェックは、ヨーロッパの今後の農業モデルのを決めるものです。今回のIFOAMが主催する会議の目的は、「CAP」の目指すべき方向性が、「①生産物と量を作ることだけを考えて農薬や化学肥料を多用する、工業化した遺伝子組み換え技術に支配された(慣行)農業」なのか、それとも「②環境に優しく持続可能性で、質と地域性にこだわり、消費者のことを考えた有機農業を中心とする(環境保全型)農業」のどちらなのか?について、政治と行政、それに市民社会が一緒になって話し合うことです。

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つまり、ヨーロッパの有機農業を1970年代から牽引してきた国際NGOであるIFOAM(国際有機農業運動連盟)のメンバーである有機農業団体の代表者たちが、欧州委員会の政策責任者たちに対して、ヨーロッパの農業政策が目指すべき方向を提案する場なのです。具体的には「土壌や地下水を汚染しない環境への便益があり、生物多様性を維持し、炭素の土中吸着やエネルギー効率が高く(地球温暖化防止への貢献)、食品への農薬残留の危険性が少なく、一般的に食品の質と栄養価を高める」有機農業ではないか、ということを提案する政策提言(アドボカシー)活動の現場なのです。

【EUの農業環境政策による有機農業振興支援】
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EU(欧州連合)加盟国は、1964年に食料自給率向上などを目的に全加盟国に共通の農業政策を導入しました。それが「共通農業政策(CAP)」です。1992年に実施されたCAP改革(マクシャリー改革)では、農薬や化学肥料の使用過多による土壌や地下水の汚染によって起きた健康被害や野生動物に対する悪影響などの環境問題を改善するために『農業環境政策(EEC/2078/92)』が施行されました。具体的には、生産者が休耕や粗放化生産や環境保全プログラムへの参加を条件に環境財(公共財である健全な農村環境)を生産する為の費用が、市場から切り離して直接補償される「環境直接支払い制度」が導入されました。この施策によって有機農業や環境保全型農業への転換や継続によって被るコストと放棄した所得が補償され、1990年代以降の有機農業の発展に大きく貢献しました。

その後「農業環境政策」は、1998年のCAP改革「アジェンダ2000」で採択された「農村振興に対する欧州農業指導保証基金(EAGGF)の助成に関するEU規則(1257/1999)」によって、農業環境政策を含んだ条件不利地域の支援策と一本化された農村振興政策としてCAPの第2の柱に位置づけられました。この規則では、環境保護と農村維持の双方を合わせて農業環境とし、支援の対象としては環境と景観等の保護および向上と両立し得る農地の利用法等があげられています。具体的には、有機認証制度で認定された有機農業がこの(環境直接支払い)制度の主な受け皿となりました。

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【同僚たちと欧州委員会のあるベルギーへ】
ヨーロッパは地続きなので、ドイツのボンからベルギーのブリュッセルまでは経費を節約するために小さなレンタカー(トヨタのヴィッツ:ヤリス)を借りて、スタッフ5人がすし詰めになって高速道路を飛ばして行きました。仕事を終えた夕方に出て、最後は道に迷ったりでその日の夜遅く(2時過ぎ)になんとかホテルに到着。へろへろに疲れましたが、翌日は朝からちゃんと会議に参加しました。そして2日間にわたって会議が開催されたベルギーの老舗ベッドフォードホテルの各会議室には、僕にとっての「オーガニックヒーロー」たちが、あちらにもこちらにもいてつい興奮してしまいました(写真はブリュッセルの欧州委員会が入っているベルレモンビル)。
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例えば、最も歴史のある有名なスイスの有機農業研究所(FibL)の所長で、後にIFOAM世界理事の同僚になる「ウルス・ニグリ氏」。これまで自分の修士論文を書く際にお世話になった専門書や論文の著者で業界では有名なオーガニック政策の研究者、ウエールズオーガニックセンター代表で英アベリストウィス大学教授の「ニコラス・ランプキン氏」。エマーソンカレッジの先輩でもある英国最大の有機農業団体ソイルアソシエーションの代表「パトリック・ホールデン氏」などなど。彼らをはじめ、数多くのヨーロッパを代表する有機農業関係者たちが一同に集りました。一緒に行ったIFOAM本部の同僚たちとも、この興奮を分かち合いました。

【有機農業と地球温暖化の関係について】
12月5日の午前中の最初のセッションでは、ヨーロッパの「有機農業とオーガニック食品における行動計画」の見直しについて、ボエル農業・農村振興局委員などによる講演がありました。次のセッションでは、「公共財と政策目的」がテーマになりました。FiBL所長のウルスは、ここ数年間集中して有機農業と地球温暖化の関係について研究を続けています。彼は後半のセッションで「有機農業とオーガニック食品は、どれぐらい気候変動を緩和して、公共財を生み出すことができるか?」というテーマで最新のデータを駆使した講演を行いました。
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IFOAMは、1970年代から欧州委員会や欧州議会に対して有機農業に関する政策(有機認証制度や農業環境政策・農村振興政策)導入のためのアドボカシー活動(生産者や消費者にとってより利益の多い政策にするための政策提言活動)を続けてきました。現在、世界で最も発展しているヨーロッパの有機農業やオーガニック食品市場(2007年で農業全体の約4%、市場は約2.6兆円規模)。EUがこの発展に不可欠な「有機認証制度」を1991年に導入するための政策(EEC/2029/91)を策定する際には、EUオーガニック基準の策定過程を含めてIFOAMが大きな影響を及ぼしました。IFOAM・EUグループは、IFOAMの地域組織として2000年からブリュッセルでのアドボカシー活動やロビー活動をメインの活動としています。

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【EUの農業と環境の政策担当者が参加】
この会議にスピーカーとして発言をした代表的な参加者を各分野から挙げてみます。政治家としてはEUの共通農業政策(CAP)を含む農政全般の責任者、欧州委員会のマリアン・フィッシャー・ボエル農業・農村振興局委員(農水大臣)や欧州議会の農業・農村振興総局副委員のフリードリッヒ・ウイルヘルム氏(欧州緑の党:写真)。同じく欧州議会議員のディビッド・ハンマーシュタイン氏(欧州緑の党)。農業・農村振興委員会のアドバイザーを務めるハンス・ロレンゾ氏などが参加しました。

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EU官僚としては、欧州委員会から農業委員フィッシャー・マリアン・ボエル女史の官房長、ポール・クリストファーセン氏と事務局のジュリアン・モウスニャー氏。農業・農村開発総局(農水省)の農業政策予測分析局長、タソス・ハニオチス氏、有機農業ユニット長ジーン・フランシス・フロット氏や政策官のヘルマン・フォン・ボクセン氏、環境総局自然環境保護本部事務局長のラディスラブ・ミコ氏と政策官のレオナルド・ニコラ氏をはじめ関連部局の担当者が多数参加しました。EUに次いで世界第2位のオーガニック食品市場のアメリカ(2007年の市場は約2兆円規模)からは、アメリカ農務省の米国オーガニック基準委員会議長のアンドレア・カロエ氏が参加しました。

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また政府間機関のOECD(経済協力開発機構)からは農業環境局長、ウィルフリッド・レッグ氏らが参加。市民社会組織(CSO)からは、デンマーク消費者委員会の事務局長、ラスムス・キャルダイ氏。国際環境NGO「バードライフ・インタナショナル」のEU農業・農村振興政策担当、アリエル・ブルナー氏らも参加しました。有機農業団体では、イギリスを代表する有機認証団体である「ソイルアソシエーション(英国土壌協会)」代表のパトリック・ホールデン氏や、ヨーロッパを代表する老舗の有機認証団体「デメター・インターナショナル(本部:ドイツ)」副代表でEUコーディネーターのニコライ・フックス氏(2009年3月に来日)などが参加。また有機農業に関するヨーロッパの代表的な研究者たちや、実際に有機農業に取り組む農家も多数参加しました。
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【ヨーロッパオーガニック会議の内容】
会議では、この3年半の間に実施されてきた、オーガニック食品と有機農業に関する「ヨーロッパオーガニック行動計画」の内容が評価されました。また、参加者たちはオーガニック食品と有機農業のさらなる躍進をめざして、EU加盟27カ国によるCAPの政策課題について議論し、政策を発展させました。この議論では、オーガニック製品の生産が社会に対して様々な利益をもたらすこと、そのことがEUの政策目標にいかに貢献できるかが強調されました。主なテーマは以下の通りです。
・オーガニック食品と農業が社会にもたらす利益
・CAPの中間見直しにおけるオーガニック食品・有機農業政策
・CAPにおける一貫性のある環境政策の融合と目的
・有機農業に関する雇用促進、革新、競争力アップのための研究
・新たなオーガニック規制:チャンスと課題
・有機認証制度、加工、流通について

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【欧州オーガニック会議 分科会のテーマ】
会議はヨーロッパの将来のオーガニック政策ビジョンを作り上げるための会議でもありました。会議の分科会プログラムは、将来の有機農業(オーガニック生産全般)に影響を与える政策課題について議論する貴重な機会を提供しました。欧州レベルの有機農業運動と政策担当者たちの間の会話を促進するために、以下のような5つの分科会が設置され、各分科会にオーガニック商品のサプライチェーンの代表者たちも参加しました。
・ 新しいオーガニック規制について(2009年に有機認証制度の改正)
・ 2013年以降のCAPとこれまでのCAPの予算見直し
・ 有機農業と新しい「農村振興計画(政策)」について
・ 遺伝子組み換えフリーな農業を守る政策について
・ オーガニック食品と有機農業のための研究ビジョン
・ オーガニック食品の信頼性(有機農業の原則と発展するマーケット)

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【ヨーロッパオーガニック会議の成果】
IFOAM・EUグループによると、300人を超える参加者が集ったこの会議では、EUの将来の農業政策に対して明確な政治的提案を進展させることができました。そして新たな政策課題が確認されました。また欧州委員会の農業担当委員マリアン・フィッシャー・ボエル氏が参加したこの会議では、オーガニックセクターが直面している将来への課題を確認しました。「それをどうすれば解決できるのか?」そして「オーガニック生産の様々なメリットから得られる社会的恩恵を、政策立案者たちがいかに確実に政策に反映できるか?」が重要であることが確認されました。また、参加した欧州委員会の環境総局と農業総局の政策担当者たち、そして環境NGO代表らは、現在のCAP見直しにおいて最優先事項である環境問題、気候変動、生物多様性の維持、水質の管理において、有機農業の取り組みが貢献できることをしっかり認識しました。

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IFOAM・EUグループ代表のフランシス・ブレイクは、今回の会議について以下のように述べました。「常識的には、予防原則に基づく有機農業の土台は、CAPのあらゆる目標を遂行し、欧州市民の希望に適う、投資を正当化される唯一の農業システムです。私たちは欧州委員会に対し、『ヨーロッパオーガニック行動計画』の見直しと改訂を呼びかけます。それはあらゆる農業政策分野を通じて、この有機農業という重要な生産システムを適切に促進するために一貫した政策を打ち出すためのものです。CAPの将来についての今回の話合いは、真剣な行動を起すための重要な機会を提供できました。」

※欧州委員会は、2004年にEU全体のオーガニック食品の普及啓発を含んだと有機農業の更なる発展のための「ヨーロッパオーガニック行動計画」を採択しました。これはEU加盟国(現在27カ国)が合意した政策指針文書です。
http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/agrifood/organic/document/euorgcap.htm
http://www.organic-europe.net/europe_eu/action-plan-eu.asp 英語

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IFOAM・EUグループの創設メンバーで元代表のフランシス・ブレイク氏は、英国最大の有機認証団体、ソイルアソシエーションの基準・技術部長でもあります。ブレイク氏は1980年代から長年に渡ってイギリスとEUの有機農業の発展に貢献してきました。
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【今後の有機農業に関する活動計画】
会議の結論において、以下の必要な活動計画が確認されました。
(1)有機農業をCAP見直しの一部として展開される環境施策における特定の対象とする。
(2)農村振興資金の増額案について、確実に有機農業が対象とされるようにする。特にこれまで有機農業支援が十分になされてこなかった地域や加盟国を対象とする。
(3)調査・開発・知識を優先することを確認し、焦点を絞ってオーガニックに特化した研究計画やフォーラムの発展をサポートする。
(4)オーガニック食品・有機農業を定義するEU規制の改正プロセスにおいて、利害関係者がより幅広く参加できるようにする。
(5)オーガニック食品の信頼性を、市場の拡大によってそのコンセプトの価値を落とすことのないよう、核心的な価値に準拠して守り維持する。
(6)オーガニック製品は非遺伝子組み換えであることが法的に守られるようGMO政策に向けたキャンペーンを続ける。遺伝子組み換えによる汚染の法的責任は、一貫して汚染者支払い原則に基づくことを明確にする。
(7)急速な原油価格の高騰と近い将来の原油不足の予測に基づいて、オーガニック生産の早急な導入が必要であるという緊急性を確認する。

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【ヨーロッパオーガニック会議の総括】
IFOAM・EUグループ事務局長のマルコ・シュルターは、「2004年の欧州委員会のオーガニック行動計画は、良いスタートではあったものの政策の重要な部分が十分に実行に移されず、取り残されることもあった」と指摘しました。また「特に、遺伝子組み換えに汚染されない農業をいかに守っていくか、という問題については取り組まれていない。有機農業をサポートしていくために、調査研究と農村振興政策における欧州の政策には、飛躍的な発展が求められている。」と述べて、「この会議は、政策立案者に対して具体的な提案を示すものとなった。今こそEUとその加盟国は真剣に行動に移さなければならないときだ。」と総括しました。

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定員を大幅に超えた参加者が集ったこのイベントでは、オーガニック産業部門がその強さと成熟度を示しオーガニック食品・有機農業が農業全般における政策論争の中心となってきたことを証明しました。また今回のイベントに欧州委員会の官僚や欧州議会議員が数多く参加したことは、EUの政策立案者たちにとって有機農業がいかに重要な問題として認識されているかを示す結果となりました。※ヨーロッパオーガニック会議の詳細:http://www.organic-congress-ifoameu.org

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【市民社会がリードし続ける有機農業政策】
今回、僕も初めてEUレベルでのIFOAMのアドボカシー活動の現場を体験しました。40年近い有機農業に関する世界の現場での活動実績と、長い年月をかけて築き上げてきたブリュッセル(欧州委員会)との厚い信頼関係があってこその結果だと思いますが、有機農業に関する政策というか農業全体の方向性に関する政策を、こんなふうに現実に市民社会(NGO)の側がリードしていることに、強い感銘を受けました。ちなみにEUでは、有機農業だけでなく環境政策に関しても国際環境NGOの持つ調査データなどを活用して、市民社会が欧州委員会の政策立案に深く関わっているといいます。http://www.foeeurope.org/links/green10.htm
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日本でも、長年にわたって有機農業に関わってきた有機農業団体(NPO)など市民社会が有機農業を推進するための政策提言を続けてきました。その結果を超党派の有機農業推進議員連盟が受けとめてくれて、現場の声を反映した内容の議員立法で2006年12月に「有機農業推進法」が制定されました。
http://organic.no-blog.jp/weblog/2009/07/4_aa9d.html

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最後に、オーガニック世界会議2008にも参加してくれた欧州議会の農業・農村振興総局副委員長のフリードリッヒ・ウイルヘルム氏の言葉を紹介します。「IFOAMは持続可能な農業のポジティブな影響についての活発な議論のためのフォーラムであり続けるべきだ。IFOAMは、もっと持続可能な農業の実践を増やすために、その目標と奨励を定めること、明快な認証と表示基準を示すこと、それに地域のマーケティングと公正な競争のための主役であり続けるべきだ。IFOAMはこれまでいつも有機農業政策に関するロビー団体以上の存在だったし、有機認証システムの供給者以上の存在であり続けてきた。有機農業は、地域コミュニティの未来についての議論の指導的役割を担うべきだ。農業(agriculture)のないところに文化(culture)はないはずだから…。」
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【ユーロ世代と拡大するEUのオーガニック市場】
僕が、最初にヨーロッパに留学したのは1997年の秋でした。今回、車で地続きでドイツとベルギーの国境を越えて会議に行った同僚は、20代後半~30代なかばのドイツ人・フランス人と中国人の男女たち。若い彼らは、1999年にEUの統一通貨「ユーロ(€)」が導入された後に大学生活を過ごした世代です。つまり初めての給料でもらったのは、「フラン」や「マルク」ではなくすでに「ユーロ」だった訳です。若いドイツ人のクリスティアーナは、「自分はドイツ人だけど”ヨーロッパ人(欧州人)”という意識が強いのよね。」と言っていたのが、さすがユーロ世代だなーと印象的でした。でも、一緒にいたフランス人のジョエルは、自国の文化を大事にするお国柄なのか、自分のアイデンティティーは「断固としてフランス人よ。」と言っていました。いずれにしても「単一(ユーロ)経済圏」として東方への拡大(現在27カ国)と成長が続くEUでは、オーガニック市場がまだまだ順調に伸びているようでした。

【第2回ヨーロッパオーガニック会議2009】
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早いもので、2年に一度開催されるこの会議の第2回目が、今年の12月にまたブリュッセル(ベルギー)で開催されます。会議のタイトルは「気候変動、生物多様性の喪失、世界的な食料危機の時代における有機農業とオーガニック食品」です。以下は、公式な会議の概要です。

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食料生産は、21世紀に入って深刻な課題に直面しています。食料生産は、気候変動(地球温暖化)に適応しなければならないし、そして生物多様性の喪失を止めることに貢献しなければなりません。同時に世界の人口増加により食料の需要が増加しています。一方で、現在の(農薬や化学肥料に依存する)農法の多くは気候に対して負の影響を与えています。

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有機農業は、これらの課題に立ち向かうための解答を提供します。有機農業は、気候変動を緩和(低減)する高い可能性を持っています。そして、有機農業は通常の場合より高い(生物)多様性と高いレベルの農場生態系の機能の知識を示しています。そしてまた気候変動に対してより回復力があるとも言われています。いくつかの研究は、有機農業が異なった生態系サービスの維持に便益があることを証明しています。さらに、オーガニック食品チェーンは、持続可能性の高い食品チェーン実践のための先駆けとして、また実験室として貢献できます。有機農業は、生産者と産業と消費者の間の新しい関係と、新しい経済コンセプトのために貢献することができます。

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第2回ヨーロッパオーガニック会議は、オーガニック食品システムがこれらの課題に対応する際に貢献できることを議論するためのスペースを提供します。そして(EUの)共通農業政策(CAP)だけでなく、「他のヨーロッパの政策やヨーロッパの農業が将来の課題に立ち向かう際に適応できるように、いかに変わる必要があるか」という結論を導きます。この会議には、有機農業セクターの代表者や、ヨーロッパの各機関、市民社会(NGO/NPO)、国の関係省庁から約200人が参加者します。
http://www.organic-congress-ifoameu.org/

【欧州委員会の構成】
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欧州委員会(European Commission)は、EU(欧州連合)の行政執行機関として法令案の提出、法令の執行、権限の範囲内の事項に関する域外国との交渉及び条約締結、予算の執行という役割を担っている。委員(各国政府の閣僚に相当)の任期は5年(再任可能)で、2007年1月のEU拡大の結果、委員数は2007年1月より27名。委員は事務執行に関し事務局職員により補佐されている。事務局は、各国の中央省庁に該当する36部局からなり、約25,000人の職員を擁している。主なものは総局(Directorate General)と呼称される(外務省HPより)。

Team_la_suite_p6210470北イタリアのボローニャを州都に持つエミリア・ロマーニャ州。バルサミコ酢発祥の地、モデナで第16回のIFOAM「オーガニック世界会議(OWC)2008」は開催されました。それに引き続いて開催された第19回「IFOAM総会(GA)2008」は、そこからバスで約30分ほどの町、おいしいチェリーで有名な町、Vignola(ビニョーラ)が会場となりました。世界約110カ国に約800団体のメンバーを擁する国際NGO、アイフォーム「IFOAM(国際有機農業運動連盟)」の執行部である世界理事会の役員(世界理事)は、3年に一度開催される「IFOAM総会(GA)」で、参加したメンバーによる直接投票で選ばれます。http://www.ifoam.org/about_ifoam/around_world/japan.html

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この中世に建てられた古城がIFOAM総会の会場です。この小さな町には参加者全員は宿泊できずにモデナから通う人もいました。僕は、バスで20分ぐらいかかる不便な隣町バサーノのホテルに泊まっていました。「なんで歩いて行ける距離のホテルじゃないんだ…。」とすごく不満でしたが、この英語も話さないイタリア人のお母さんが切り盛りする小さなホテル(ラ・スイータ)に泊まれたことが、今回の世界理事選挙で当選できた要因のひとつ、予想もしなかった幸運だったとわかったのは日本の同僚さえ無理だろうと思っていた選挙の当日でした。

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それまでは、偶然同じホテルに泊まった陽気なフィリピン人のパブリート(有機農業に関する国際コンサルタント)が会場への行き来のバスの中で、僕のオーガニックに対する考え方を聞いてきて「よっしゃ、わかった。気に入った。俺が選挙のキャンペナーになってやる!」と、同じホテルに泊まっている各国を代表する人たちに(カフェオレとブリオッシュの朝食の時)紹介して回ってくれました。「こいつがマサヤ。いい奴だから投票してやってくれ!」これで、今まであまりご縁のなかった南米やスペイン、環太平洋の国々、アメリカなどからのメンバーたちと知り合うことができました。彼に出会えただけでも幸運だけど駄目押しはその翌日にも起きました。

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翌日の選挙に向けて、徹夜で仕上げたスピーチ原稿を、ホテルで印刷して朝の出番に備えようと思っていたのに印刷できず、焦って途方に暮れていると、今度は陽気なパブリートの静かな奥さんスーザンが、「キーワードを紙に書き出すのよ。内容は頭に入っているでしょう。」その言葉を頼りに、会場に着くまでのバスの中で、なんとかメモを完成させました。するとこれが大正解。文章を読むと、ひとり4分と厳しく制限された時間をオーバーしてしまいます。英語で、こんなに大勢(しかもみんなオーガニックの大先輩たち)の前で話すのは生まれて初めてのことで相当に緊張しましたが、キーワードを中心に必死に会場のみんなに話しかけて、なんとか時間ぎりぎりで収まったのです。スピーチは、本当につたない英語でしたが一生懸命さはなんとか通じたみたいで、これも書かれた文章を読み上げなかった成果でした。

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僕の順番は2番目と早く終わりましたが、この後に残りの十数人のスピーチが続きました。ヨーロッパ、南米、北米、アジア、環太平洋地域、アフリカと世界の主要な大陸から、IFOAMの様々な委員会などに長年関わってきた人やそうではない人、人種も肌の色も多種多様な候補者たちの本当にそれぞれに個性的なスピーチが続きました(IFOAM総会資料P20~P46に候補者が紹介されています)。
http://bioforum.be/v2/cms/documenten/IA-97-GA-en.pdf


その一人、1970年代からIFOAMと二人三脚で世界の有機農業の調査・研究に貢献してきたヨーロッパを代表するオーガニックの研究機関FiBL(フィブル:スイス有機農業研究所)の所長ウルスなどは、長年のIFOAMへの貢献からメンバーたちにもお馴染みのようで、あいさつの後すぐに「自分は長年の経験からファンドレイジング(資金調達)が得意ですが…。」と言った途端に客席から「もうそれだけで十分だぞ!(笑)」という声が飛ぶなど、フレンドリーでリラックスした雰囲気でした。

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そして投票。実は、かなり大きな会員票を持っていた韓国チームで、諸事情により自国の理事候補が出ないことになり、代表者らとの協議の結果、彼らも自分に投票してくれることになりました。これもまったく予想もしなかった展開です。それに、昨年IFOAM本部で一緒に働いていた中国の政府系有機認証機関(OFDC:中国有機食品開発センター)の職員である友達が、一緒に来た中国のオーガニック関係者の票をまとめてくれました。http://www.ofdc.org.cn/

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彼は、IFOAM本部で一緒に働いている頃から「有機認証のことには詳しくない自分にはその資格はないし、自信もない…。」と何度言っても、僕の世界理事への挑戦を励まし、サポートし続けてくれました。もちろん、日本のIFOAMジャパンの仲間や大先輩たちも、応援してくれました。特に、これまでに日本からのIFOAM世界理事を務めた歴代の先輩たちも、会場で会った古い馴染みの各国を代表する有機農業団体のリーダーたちを紹介してくれるなど、とても貴重な支援をしてくれました。それでも今回はこれまでの2倍近い競争率の厳しい選挙です。

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一度目の投票では過半数の得票を果たした5人が選ばれました。でもその中に、これまでの世界理事経験者はひとりだけでした(これまで10年近くIFOAMに貢献してきた4人の理事たちは、今回は後進に道を譲るため不出馬)。しかもこれまでIFOAMを引っ張ってきた理事長は、自分はこれまでに十分やってきたと思うからと2度目の投票から降りてしまいました。正直なところ、思わぬ展開にとても驚きました。とんでもないことになってしまった。こんな体制ではとてもじゃないけど自分にはやれない…。経験者の少ない理事会では選ばれたとしても責任が重過ぎる…。そんな思いが頭を廻りました。

びびっていると今回選挙の候補者選定委員会の委員長で元IFOAM理事長(米国最大の有機農業団体OTAの創設メンバーで有機認団体OCIA元理事長)のアメリカ人トムが近寄ってきて、「我々はこういう状況になったから、いよいよあなたが選ばれることが重要になってきたと考えている。」 と話しかけられました。

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世界各国の有機農業を代表するキャリアを持つ大物の候補者たちに、とても勝ち目はないだろうと思っている自分に、この人が何を言っているのかよくわかりませんでした。こんな状態では仮に選ばれたとしても、とてもやれない…。そう言うと、「聞きなさい。必要なことは 起こるんだ。メンバーのvote(投票)と、そのプロセスを信じなさい。」青いダンガリーシャツに白いチノパンか映える恰幅のいい映画にでも出てきそうな彼の口から、インディアンの長老のような心に響く言葉を聞いて不思議と気持ちが落ち着きました。「そうだ。みんなの判断に身を任せればいいんだ…。」

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果たして2度目の投票が行われ、結果は8番目に名前を読み上げられました。最終的にはこれまでの世界理事の経験者が全部で3人当選しました。なかでも最初の留学先エマーソンカレッジの先輩で基準・認証のスペシャリストのマレーシア人で元世界理事のクン・ワイが当選してくれたのが救いでした。有機認証だけがIFOAMの仕事ではありませんが、1980年からIFOAMがリードしてきた世界の有機認証制度は、各国のオーガニック市場を拡大してきた、ひとつの重要な仕組みだからです(以下はIFOAMの活動紹介)。
http://organic.no-blog.jp/weblog/2008/09/ifoam_8e4d.html

今回のこの結果が何を表しているのかは今の時点ではまだよくわかりませんが、各国の有機農業運動や有機認証団体を1970年代の最初から作ってきた世代がこれまで長らくIFOAMの理事を務めてきましたが、その時期が終わって今回は理事会のメンバー構成が大きく変わるタイミングだったのだろうと思います。

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それにしても、とんでもないことになった…。というのが正直な感想でした。舞台に上げられて写真を撮られる時も、うれしさというよりその責任の重さにたじろいで笑うことも忘れていました。会場にいた総会で知り合ったニュージーランド人の女性から「そんなに離れていないで、もっとみんなに寄りなさい!」と声を掛けられて自分がそんなに端っこにいたことに初めて気がつきました。そして、会場から写真を撮る人混みの中に、今回、僕の応援を買って出てくれた気のいい陽気なフィリピン人、パブリートを見つけて、ようやく笑うことができました。これまで10年以上、IFOAMの理事や副理事長を務めてきて、今回で3年間務めた理事長を降りたドイツ人のゲラルド(他の理事たちからはスーパー理事長と呼ばれていた)は、握手を交わした時に「最初から君を応援していたよ。仲間にも支持を頼んだんだよ。」と信じられないようなことを言ってくれました。どうやら、僕がIFOAM本部で働いていた時のことを聞いてくれていたようでした。

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今回のイタリアで経験した、いろんな偶然や出会い、巡り合わせは、自分で仕組もうと思ってもとてもできるものではありませんでした。そんなことを考える余裕もなにもない状態で総会の会場に入りました。でも考えてみたら、IFOAMに出会って12年間。その間、欧州のオーガニックに憧れて、会社を2度も休職させてもらって留学して、ヨーロッパの有機農業のよさを学ぼうとしてきたこと。苦しいときもあったけどその苦しさも合せて楽しめたこと。あまりにもすごいことをやっているIFOAMに飛び込んで実際に学ぼうとしてきたこと。実際に仲間たちと仕事をしてみたこと。大事な出会いに恵まれたこと。

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日本でその経験を生かすベく自分なりに働いてきたこと。そんなことが、英語力を含めて本当はまだまだ理事の任に堪えるような実力のない未熟な自分に、「本気でやりたいならやらせてみよう。」というみんなの大きな気持ちで理事に押し上げてもらったように感じた3日間でした。日本の夏の猛暑を先取りするような暑さの中、世界中から集まった、本当に気持ちのいいアジアの、南米やアメリカの、アフリカのヨーロッパのオーガニックな仲間たちから与えられた大きな役割を果たすべく、3年間頑張りたいと思います。3c0fc2a2.jpg

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3年に一度の第16回「オーガニック世界会議(OWC)2008」に続けて、IFOAM(アイフォーム)の意思決定機関である第19回「IFOAM総会」がモデナにほど近い町、Vignola(ビニョーラ)で開催されました(6月22日~24日)。会場は中世にまでその歴史をさかのぼるビニョーラ城でした。総会には、200人近いメンバー(IFOAMの正式な会員)が参加しました。参加する個人が最大5票まで持てる(参加できないメンバーからの)委任状も入れると全会員の60%近い約340団体という過去最大の参加者による総会でした。http://www.ifoam.org/about_ifoam/around_world/japan.html

2008_ifoam_143_2【IFOAM 総会とは】オーガニック世界会議に引き続き、第19回「IFOAM(国際有機農業運動連盟)総会」がモデナで6月22日から24日まで開催されました。IFOAM総会は、3年に一度のIFOAM「オーガニック世界会議(OWC)」と併せて招集されます。総会は、国際的な有機農業運動のための民主的な意思決定のフォーラムです。IFOAMの総会は、メンバーや理事、そしてスタッフをIFOAMの使命に向けて刺激するとてもダイナミックで活気のある集まりです。メンバーは、総会において話し合われて投票される動議を提出することを奨励されます。イタリアのモデナでの総会では、世界中からすべての多様性における有機農業関係者が集まり未来に向けた挑戦とチャンスについての熟慮を重ねました。

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総会では、理事長による報告のなかでIFOAMの世界理事によって当期(2005-2008年)の期間になされた仕事や達成業績が紹介されました。事務局長は、本部スタッフや委員会、そしてタスクフォースが達成されるべき仕事に対してどのように貢献したかを説明しました。それに加えて、IFOAMの政府や国際NGOとの協力についての報告も行われました。そして、前回の総会(2005年)が開催されて以来の期間に行われたIFOAMの会議やイベントからの結論や報告について議論されました。それ以外にも、3年に一度開催される2011年のIFOAM「オーガニック世界会議(OWC)2011」の開催国も、この総会において会員による投票で決められました。また、IFOAMの運営に責任を持つ執行部である次期(2008‐2011年)の世界理事(10名)を決めるメンバーによる投票も行われました。世界理事選挙の候補者は、以下の総会パンフレットに紹介されています(※今回僕も立候補させていただきました)。
http://bioforum.be/v2/cms/documenten/IA-97-GA-en.pdf

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【IFOAM総会 in モデナ】総会では、前回の総会(2005年に豪州アデレードで開催)からの3年間を託された世界理事会メンバーとIFOAM本部のスタッフたちによる総括と報告。理事長による報告では、当期間(2005-2008年)になされた仕事や達成業績が紹介され、事務局長からは本部スタッフや各委員会(タスクフォース)が果たすべき実績に対してどう貢献したかが説明されました。今期の会計報告と来期(2008年-2011年)の行動計画と予算案も承認されました。

事前に会員に配布された機関紙の総会特集号には討議されるべき課題が記載されていて、それに対する動議が活発に行われました。現執行部から提案されたいくつかの重要なテーマについては、参加者からの修正を求める意見も多く出され、この場が本当に会員の意見を表明する場であることを感じました。それをかなり厳密なルールに基づいて、民主主義的に意見を戦わせて、自分たちの利害(国ごと、また認証団体や小規模農家など)を主張していたことが印象的でした(以下が第19回IFOAM総会の特集号です)。http://bioforum.be/v2/cms/documenten/IA-97-GA-en.pdf

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【オーガニック世界会議2011の開催地】総会でメンバーの投票によって決められるテーマに、3年毎に開催される「IFOAMオーガニック世界会議(OWC)」の開催国(会場)があります。この有機農業における世界最大の祭典は、その開催地を巡ってまるでオリンピックを誘致するような国際的な競争が繰り広げられます。この総会では、2011年のIFOAMオーガニック世界会議(と総会)の開催に向けて、台湾・フィリピン・韓国が大会の招致に名乗りをあげて会議期間中を通じて熱いプレゼン合戦を繰り広げました。前回イタリアに破れていた韓国は、捲土重来を期して(2年越しの挑戦で)100人近い代表団を送り込んで挑みました。開催候補地(京幾道)の金文洙(キム・ムンス)県知事本人が乗り込んでの(経済的な支援を含めた)アピールなども功を奏したのか、その熱意が伝わって、最終的に韓国がIFOAM会員メンバーから開催地として選ばれました。
http://organic.no-blog.jp/weblog/2010/10/in_57a1.html

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【世界理事会のメンバー選出】2008年のIFOAM総会では、 会員からの直接投票で決まる総会での一番大きなテーマが向こう3年間のIFOAMの舵取りを任せる執行部、世界理事会のメンバーの選出です。世界から10人を選ぶ世界理事選挙は特に国ごとの枠がある訳ではなく、でも世界100カ国以上から集まったメンバーたちは、冷静にいろんな要素を考慮してバランスのいい投票をすると言われていました。

ただ通常理事選の競争率は高くても1.5倍ぐらいところが、今回は10人の枠に約3倍の27人が立候補したIFOAM史上稀にみる激戦でした。一度目の投票で過半数の投票を得た5人が選ばれ、2回目の決選投票で残り5人が選ばれました。結果的には、アメリカ、南米(ペルー)、ヨーロッパ(スイス・ イタリア)、アフリカ(ウガンダ)、インド、オーストラリア、 フィリピン、マレーシア、日本というほぼ全世界を網羅する国から、 世界理事が選ばれました。日本人としては、3年ぶりに3人目の理事として僕が選ばれました。ほとんど無理だろうと思っていただけに、自分でも驚く結果でした。以下のリンクはこの件を報じてくれた朝日新聞の記事です。「The_Person_asahinews20080730.pdf」をダウンロード

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これまで10年以上IFOAMの活動に貢献してきた元理事長のジェラルドは広報や流通、LSE留学という自分の経験を高く買ってくれていたようで、ドイツやヨーロッパの仲間たちに応援を依頼してくれていたと選挙の後に教えてくれました。結果的には、アジア・ヨーロッパ・アフリカ・南北アメリカとまんべんなく支持してもらったみたいで、世界中からそれぞれの国を代表するような候補者たちの中で8番目に選んでもらいました。 いろんな要因がプラスに働いたのだと思いますが、メンバーの多くは、なかなか進まない日本のオーガニックマーケットの発展を期待していると思いますので、自分のスキルを生かして、より多くの人に有機農業やオーガニックの持つ良さ(安全性だけでなく生多様性の保護や地球温暖化防止へも貢献!)を知ってもらうことで、オーガニック市場の発展に貢献できるように頑張りたいと思います!

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6月18日(水)~6月20日(金)の3日間、イタリアのモデナという街で開催された、第16回「IFOAMオーガニック世界会議(OWC)」2008に参加しました。この会議は、3年に一度開催される有機農業に関するあらゆる分野の最新の情報や関係者が集合する世界最大のオーガニックの祭典です。大会のテーマは「(オーガニックな)未来を耕す!」 プレ会議を含めて6月16日(月)~20日(金)まで、多様性と独自性に溢れる世界中の有機農業関係者がモデナに大集合しました。オーガニック方法で「未来を耕す」ことは有機農業の発展を通じて人間と地球の両方を尊重しながら調和のうちに暮すことです。
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それは、オーガニックが健康的で公正な環境を未来の世代に保証できるものだと信じる人たち、つまり有機農業に関わる農家、消費者、メーカー、流通、研究者、科学者、活動家にとって、根本的に大切なモチベーションです。モデナは、北イタリアに位置する有機農業の発祥の地であり、パイオニアの土地です。エミリア・ロマーニャ州にあり州都はボローニャです。モデナでオーガニックが発展したのは、有機農業に使われている手法と耕作技術によるものだけでなく、伝統的に伝わる母なる地球と調和のうちに生きる文化によるものです(※OWCプレスリリース)。「IFOAM_organic_world_conference_2008.doc」をダウンロード

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第16回「オーガニック世界会議(OWC)」2008は、6月18日から20日まで開催されました(16日・17日にはテーマ別会議が開催されました)。この会議は、IFOAMによる4つの有機農業の原則である「健康・エコロジー・公正・配慮」に基づいて開催されました。これらの基本的な原則に基づきながらも、以下の点にもフォーカスしました(写真は基調講演を行う国際スローフード協会会長のカルロ・ペトリーニ氏)。
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「地域価値と伝統的な知識」について。これらは、私たちがよりよい経験と創造的刺激を得ることができる源泉です。「イノベーション」について、すべての分野において、私たちが最もよく未来に向かっていくために技術革新が必要です。「議論のための場」について。異なる団体間が協力できるような場を提供します。例えば生産者と消費者、政府と民間団体、科学者と実践者、南と北、コミュニティと地域と国などです(IFOAMによる4つの有機農業の原則「健康・エコロジー・公正・配慮」)。http://www.ifoam.org/about_ifoam/pdfs/POA_folder_japanese.pdf
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【有機農業運動のプラットホーム】3年に一度開催されるIFOAM「オーガニック世界会議」は、有機農業に関わる人たちに重要なプラットフォームを提供します。また違う文化や地域、時間と場所の間に橋を掛けます。この会議は、科学者から芸術家までの第一人者たちの助けを得て、可能な限りの多様でクリエイティブなツールを使うことによって導かれ、創造的刺激を受けました。会議、ワークショップ、セミナー、円卓会議、フォーラム、アクティブで活気のあるポスターセッションなど、それぞれの形式による多くの同時並行で開催されるイベントの成果は、すべて継ぎ目なく織り合わされるました。そして、オーガニック世界会議に引き続きIFOAM総会がモデナの隣町、ヴィニョーラで6月22日から24日まで開催されました。
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【IFOAM(国際有機農業運動連盟)】第16回の「オーガニック世界大会(OWC)」2008を主催したのは、35年以上前の1972年から世界の有機農業をリードしてきた国際オーガニックNGOのIFOAM(アイフーォム:国際有機農業運動連盟)。2006年FAO(国連食糧農業機関)は、有機農業をこれまでの農薬に基づく農業に対する重要で著しく効果的な代替案であると認めました(以下のリンクはオーガニック世界会議のパンフレットです)。http://www.ifoam.org/events/ifoam_conferences/owc/pdf/Registration_Brochure.pdf
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【多彩な参加者が世界中から!】この第16回目の開催となる「IFOAMオーガニック世界大会」には、世界中から約1700名の小規模農家、有機農業団体、有機認証団体、流通企業関係者、研究者、政策立案者、各国の政府関係者、多国籍食品企業、加工メーカー、国連機関の代表、政治家や大学生から小学生までと多彩な人たちが参加しました。
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ゲストには、反GMO(遺伝子組み換え生物)で有名な環境活動家のヴァンダナ・シバ女史、明日の地球を救う50人(英紙ガーディアン)に選ばれた伊スローフード協会会長のカルロ・ペトリーニ氏、国連環境計画(UNEP)事務局次長のアンジェラ・クロッパー女史、EU議会議員で、EU議会の農業地方開発省(農水省)副大臣フリードリッヒ・ウィルヘムなど豪華な顔ぶれが、グローバルでホットな問題である地球温暖化や生物多様性の喪失、食糧安全保障(食糧自給)、原油価格の高騰などに対する具体的な対応策が、オーガニック(有機農業)であることを力強く宣言していました。

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【第16回世界大会のテーマ】モデナの街中の様々な施設を使って開催された分科会やワークショップのテーマは、政府の有機農業に対する支援政策、有機農業と気候変動、開発援助と有機農業、 有機農業と生物多様性、女性と有機農業、持続可能な漁業、ナチュラルコスメ、オーガニックコットンなどでした。3年に一度だけ開催されるこのオーガニック世界会議は、世界中で発展を続けている有機農業とオーガニック食品やオーガニックコットンやコスメなど日用品マーケットでの勢いを受けて、いろいろな問題はありながらも、どこの国からも熱い、未来に向けた前向きな議論がされていたように感じました。
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【成長を続ける有機食品市場】世界のオーガニック市場は、4年後の2013年までに約700億ドルに達するだろうと言われている成長分野です。1990年代から有機農業に対して政策的な支援をしてきたEUの北欧やオーストリア、スイス、イタリアなどいくつかの国では、耕作面積の10%近くを有機農業でやっているところがでてきています。デンマークやオーストリア、スイスなどでは、オーガニック市場の割合が5%近くに達しています。 ドイツや英国、スウェーデンなどでも2.5%前後まで増えてきています(2006年)。ここ数年はEUだけでなくアメリカでもかなりの勢い(年率21%)でオーガニックマーケットが伸びています。

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【有機農業による開発支援】有機農業は、開発途上国の貧困対策、食糧安全保障の改善、農薬や化学肥料による環境破壊の減少、そして生物多様性の保護に役立っています。安全性と環境汚染について懸念されている遺伝子組み換え生物(GMO)への対案でもあり、化石燃料への依存を減らすことで地球規模の気候変動に貢献できると言われています。

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【ヨーロッパのオーガニック支援策】僕が参加した分科会では、東欧を含むヨーロッパ各国政府の有機農業を支援する政策の紹介とその実施状況について比較検討がなされました。
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「ヨーロッパの有機農業政策の経験から学ぶこと」と題した発表では、EU の有機農業が今や主流の農業政策の一部になっていること、農村開発計画(農業環境計画)から相応の利益を得ていること、一方で有機農業が支援政策に頼りすぎる傾向があることなど、1990 年初めに有機農業を支援する政策が導入されたEU のこれまでと今後について議論されました。最新のテーマとしては、バイオ燃料の問題点や有機農業の生産性向上について。また、今後も有機農業への政策的な支援を維持するために、地球温暖化へ対応策としてアピールすることの必要性などが議論されていました。ed8b6253.jpg

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パネリストには、あのドイツ緑の党の共同代表で農業・食糧・消費者保護省の元大臣、オーガニックの女神といわれたレナート・キュナスト女史が登場!彼女は、有機農業を政策的にも積極的に支援して全体の20%にまで引き上げるという高い目標を掲げました。 レナートは、日本にも以前はよく来ていた元IFOAM事務局長のベンワード・ガイアー氏の友人らしく、会議が始める前に紹介してもらって、初めて憧れの彼女と直接話す機会に恵まれました。緑の党を代表して、社民党(SPD)と8年間の連立政権を大臣として担当した実績のある政治家の言葉、しかも遺伝子組み換え生物(GMO)や、農薬・化学肥料を販売する巨大多国籍企業を敵に回して体を張って闘ってきた政治家の言葉は、ずしんと心に響きました。「(巨大な敵を相手に闘うのなら新聞記事やテレビに)自分をさらすことを恐れないで!顔を出して意見を伝えましょう。」
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【欧米日の有機認証制度・分科会】 また、別に参加したセッションでは、EU委員会の農業開発省とアメリカの農務省(USDA)、それに日本の農水省の担当者による、世界オーガニック3大マーケットにおける有機認証制度に関するセッションでした。日本からは表示・安全局、表示規格課長の新井ゆたか氏が参加。流暢な英語で、日本の2007年に改正された有機JAS法に関する説明をされていました。EUとアメリカに比べると、オーガニック市場がまだまだ未発展の日本には、関係者の大きな関心が寄せれているようでした。また、EUでは1991年に施行された有機認証制度(EEC/2029/91)「オーガニック食品の表示とラベリングに関する規則」が2009年に改訂されます。この説明にも、当事者であるEUのオーガニック関係者は真剣に聞き入っていました。

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ヨーロッパなのに、猛暑の日本と変わらないぐらいの暑さの中、18世紀から続くモデナ大学の歴史的な校舎や最新のコンベンションセンターなど街中の施設を使って行われた会議は、世界中で好調に発展を続ける産業セクターとしての勢いを感じさせる景気のいい内容が多かったように感じました

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ちなみにこの期間の食事はというと、朝はホテルのコンチネンタルブレックファースト。全部がオーガニックという訳にはいかなかったようですが、ジャムやフルーツやクロワッサンなと普通のホテルの食事よりはオーガニックなものがたくさん用意されていました。

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お昼は、主会場の巨大テントに戻れば、すべてオーガニック素材で作られたランチボックスが支給されます。オーガニックの生ハムに、 オーガニックライス、パスタやパンももちろんオーガニック。生分解性のナイフやフォークもすべてがコンポスタブルです。天気がよかったから、青い空の下、ヨーロッパらしく芝生や木陰でいろんな話をしながら、ほとんどあらゆる人種の人たちが久しぶりの再会を喜びあって食べている風景は、なかなかによかったです。

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夜はやはり街のリストランテやトラットリアでのイタリアン!飲み物はやはりワイン。しかもこの地方独特の発砲する赤ワイン。 ランブルスコという若い軽めのスパークリングな「赤ワイン」が飲めるのです!これがなんというか爽やかでおいしい!ロゼのスパークリングならよくありますが、スパークリング赤ワインは本当に初めて飲みました。こんなおいしいワインを楽しみながら、いろんな種類のパスタにピザにお肉、お魚…。公式なガーラディナーでは、フルコースのオーガニックづくし。スィーツも甘い食後酒(くるみを発酵して作った強い甘い地元のお酒)も当然全部オーガニック!あまりに贅沢な食事に少しのやましさを感じながらも楽しみました。

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ドイツはボンにあるIFOAM本部から手伝いにやってきた若い娘たちもこの時だけ?はお洒落なドレス(会議中は雑用も引き受けるからジーンズにTシャツで走り回っていた)で食事を楽しんでいました。僕も懐かしいIFOAM本部チームのテーブルに合流して約5ヶ月ぶりの旧交を温めました。日本からは農水省の課長さんふたりを含む、IFOAMジャパンのメンバーや研究者など総勢15人ほどがディナーに参加していました。

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