オーガニックブログ

2009年12月

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【国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)】2009年12月7日~18日にかけて、デンマークの首都コペンハーゲンで、国連の地球温暖化に関する会議が開催されています。http://en.cop15.dk/正式な会議の名前は、「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)」です。

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世界約190の国や地域から集った政府関係者や環境NGOなど数万人が参加しているこの会議のは、連日テレビや新聞などで報道されていますのでご存知の方も多いと思います。今回のCOP15の目的は、京都議定書で定められた「第一約束期間(2008年~2012年)」が終わる2013年以降、国際社会がどんな国際協定のもとに温暖化問題の解決に取り組むかを決めることです。具体的には、京都議定書の「次の枠組み」としての「法的拘束力のある国際合意」を作ることです。「fair_ambitious_binding.pdf」をダウンロード

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国連の気候変動枠組条約は、1992年にブラジルのリオで開催された「地球サミット」で生物多様性条約と共に採択され、気候変動対策の基本原則が合意されました。このなかで、「(先進国と途上国の)共通だが差異ある責任」が謳われました。これまでに先進国が歴史的にも圧倒的に多くの温室効果ガスを排出してきたことから、率先して国内排出量の削減を実施すべきであることが共通認識とされました。

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COP15が目指す具体的な合意内容は、「世界の気温上昇を2度未満に抑える」、「2050年までに世界全体の温室効果がス排出量を1990年比で50%削減する」、「先進国は2020年までに40%以上の削減目標を設定する」などです。ただ、これまでの報道によると温室効果ガスの削減目標、開発途上国への支援の在り方をめぐって、先進国と中国やインドなど新興開発国・開発途上国が対立しているようです。その結果、新しい議定書の合意は困難で、暫定的な「政治的合意」に落ち着くのではないかと言われています(写真は記者会見をする国際環境NGO地球の友など)。http://www.kikonet.org/iken/kokusai/2009-12-19.html

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【地球温暖化/気候変動は何が問題か?】
それに対して環境NGOサイドは「気候変動に残り時間はない!」と強く反発しているようです。地球温暖化を放置すると、気候変動によって世界各地で起きている旱魃や洪水がひどくなります。アフリカなど開発途上国の農業への影響も大きく、生物多様性が失われ、貧困や飢餓、紛争の発生につながる恐れがあります。日本でもその影響は小さくありません。ここ数年は地球温暖化が原因とみられる台風の大型化や、集中豪雨による甚大な水害が各地で起きています。また梅雨がないはずの北海道では長雨が続き、今年は東北では日照時間が足りずに、米や果物など農作物への影響も心配されました。地球温暖化は日本の農業にも大きな影響を及ぼしています(写真はコペンハーゲンでの豪州やNZからの参加者によるデモ行進)。http://www.foejapan.org/climate/doc/COP15.html

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【オーガニック先進国・デンマーク】
日本ではあまり知られていませんが、COP15が開催されているデンマークは「オーガニック先進国」でもあります。世界で最も有機農業やオーガニック食品市場が発展しているヨーロッパの中でも、デンマークは早くからその発展をリードしてきた国として知られています。
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EUでは、1992年に環境に優しい有機農業や環境保全型農業を支援する「農業環境政策」が導入されました。デンマークが国として有機農業の支援策を決めたのは1987年で、その導入はEUで最初でした。現在、デンマークの全農地に占める有機農業の割合は2008年で約6%で年に10%拡大しています。オーガニック食品市場は食品市場の約6%とその規模ではドイツやイギリスに負けますがシェアではEUのトップを占めています。

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ちなみにドイツのニュルンベルグで毎年開催されている世界最大のオーガニック専門展示会「BioFach(ビオファッハ)」では、デンマークが2009年の「オーガニック国大賞」を受賞しました。ここ数年の有機食品市場の成長ぶりは、本当に羨ましいことに「オーガニック商品の需要の伸びに有機農家の確保が追いつかない状況」だそうです(写真はデンマークのオーガニックマーク)。
http://mediasabor.jp/2008/10/post_506.html

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そして今回のCOP15の会場でも、健康的でおいしくて、お手頃価格のオーガニックフードが食べられるとのことです。主催者は、食べ物と飲み物の少なくとも65%をオーガニックで提供しており、コーヒーや紅茶はフェアトレードのものを用意しているといいます。さすがはデンマーク!でも、それには理由があります。日本ではあまり知られていませんが、ヨーロッパでは「有機農業が地球温暖化の緩和と適応に貢献できる」ことが広く知られ始めているのです。アメリカでは、あの地球温暖化の事実を伝えた『不都合な真実』等の活動で2008年にノーベル平和賞を受賞したアメリカ合衆国元副大統領のアル・ゴア氏も、最近の記者会見などでこのことに触れているそうです(以下はIFOAMやFAOと研究機関による有機農業と地球温暖化のフライヤーです:英語)。http://www.fao.org/fileadmin/templates/organicag/files/Poster_MitigationAdaptation.pdf

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【国連の会議でも活躍する国際環境NGO!】
以前のエントリーで、欧米では国際NGO(非政府組織)などが各国政府や国連機関などに対して環境問題や人権、開発援助、反戦平和など様々なテーマで、専門知識やフィールドでの経験やを活かして積極的な政策提言活動(ロビー活動やアドボカシー活動)を展開していることをご紹介しました。そして、昨年日本で開催された先進国首脳会議「洞爺湖サミット2008」などの世界各地で開催される各国の指導者や関係閣僚などが集る国際会議には、国際世論にアピールできる政策提言のいい機会とばかりに世界中から国際NGOや環境活動家が集結します。http://organic.no-blog.jp/weblog/2009/09/npo_6769.html

【IFOAMの「有機農業で地球温暖化防止キャンペーン」!】
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もちろん今回のCOP15にも世界中から国際環境NGOを始めとした数多くのNGO(市民社会組織:CSO)が結集しています。そして、その中に僕が国際理事を務めさせてもらっている「IFOAM(国際有機農業運動連盟)」の同僚たちもいます。彼らは、今回「IFOAM Climate Change Campaign (IFOAM気候変動キャンペーン)」の一環として会議に乗り込んでいるのです!http://www.ifoam.org/index.html







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IFOAMは、COP15の参加者である各国政府の代表団や「国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)」などに対して「有機農業が地球温暖化の緩和と適応、それと食糧安全保障(食糧の確保)にいかに貢献できるか」を認識してもらうために、欧州の主力な有機農業団体や開発援助団体や環境NGOなどとのチームを編成してロビー活動を展開しています(写真は会場入りしたホスト国デンマークのラスムセン首相)。

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具体的にはCOP15の開催期間を通して上記テーマに関するサイドイベントやワークショップ、有機農業に関する円卓会議の開催や記者会見などを通じた積極的なロビー(アドボカシー)活動を展開しています。それに加えて、COP15のために召集した有機農業と気候変動に関する専門家のチームは、開発途上国を含めた各国政府の官僚たちに対して「有機農業を国内農業のアクションプランにどのように統合すればいいか?」について政策アドバイスも提供する予定です。http://www.ifoam.org/partners/advocacy/COP15.html

今回の「IFOAM気候変動キャンペーン」の最終的な目標は、COP15で採択される公式の合意文書に「有機農業(持続可能な農業)による気候変動対策の有効性」について書き込んでもらうことです。このIFOAM気候変動キャンペーンのオーガナイザーは、長年に渡って有機農業と気候変動(地球温暖化防止)に関する研究を続けてきたIFOAM世界理事メンバーで「FIBL(スイス有機農業研究所)」の所長でもあるウルス・ニグリです。http://organic.no-blog.jp/weblog/2009/05/ifoam_ecf6.html

【コペンハーゲンCOP15の交渉現場から】
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地球温暖化や気候変動は、食料生産と食糧安全保障に直接の影響を与えます。この問題に継続的に取り組んでいくために、COP15において「有機農業と気候変動に関する円卓会議」が設立されました。IFOAM世界理事でFiBL所長のウルスによれば「有機農業は①高い割合で土中に炭素を固定することや②石油由来の農薬や化学肥料を使わないこと③有機肥料の最適な使用によって気候変動を緩和する高い可能性を持っています。」円卓会議のメンバーは以下の8団体です。」「ICROFS:有機農業システム研究センター(デンマーク)」「ICEA:イタリア有機認証団体」「FiBL:スイス有機農業研究所」「KRAV:スウェーデン最大の有機認証団体」「ロデール研究所(アメリカ)」「ソイルアソシエーション(英国最大の有機農業団体)」」「IFOAM(国際有機農業運動連盟)」「FAO:国連食糧農業機構」http://www.organicandclimate.org/members.html
http://www.euofa.jp/journal/archives/2010/01/post_324.shtml

Ifoamimages_2IFOAMは、これらの事実を今回のCOP15の会議で、国連機関や各国政府にアピールすることで、今後の国連気候変動枠組み条約の枠組みのなかに、例えば「森林管理」による吸収源のように持続可能な農業や有機農業を位置づけられないかと考えています。そしてアフリカでの経験を活かして、地球温暖化に適応できる有機農業を拡大することで、遺伝子組み換え生物(GMO)に頼ることなく、開発途上国の貧困や飢餓の克服に貢献したいと考えています。

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ちなみにロイターによると「アメリカ農務省は国内農家が市場を通じてCO2削減に対する対価が得られる仕組みづくりを働きかけてきた。米国の気候変動対策法案の草案には、農家がCO2排出者に排出権を売却できる仕組みの導入が盛り込まれている。」(ビルサック米農務長官:写真)。
(コペンハーゲン 2009年12月12日 ロイター通信)http://theearth.275.jp/daily/200912/15045957.php

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現場担当者であるIFOAMのアドボカシーマネージャー、ロバート・ジョルダンによれば、IFOAMチームは、この一週間で様々な環境NGOたちとの関係性を構築したり、多くのアフリカなど開発途上国の代表団とのネットワーキングに成功しているそうです。特にエジプトとエチオピアの政府代表団とは深い意見交換ができているようで、各国の成功したケースの経験を共有したり、農業大臣などの多くの意思決定者たちと「持続可能な農業や有機農業と食糧安全保障を開発プロジェクトに組み込む」ことなどを議論しているそうです。その意味では、正しいタイミングで正しい場所にいるという「ポジティブな感覚」を持てているという報告をしてくれています。気候変動は先進国だけではなく、開発途上国にとってより深刻な問題なのです。(写真はエジプトSEKEMの有機農家たち)。http://www.ifoam.org/partners/advocacy/COP15.html

【IFOAMの気候変動ウェブサイト】f253b2dd.jpg

上記のサイトには、「FiBL(スイス有機農業研究所)」などの研究機関による「有機農業と地球温暖化の関係」に関する科学的な研究結果(アフリカでのケーススタディなど)や関連情報が多数リンクされています。また、今回同じ目的で会場に入った様々な市民社会(主要な国際NGO)のアクターたちとの対談やミーティングなどの様子をビデオでも連日配信しています。英語の得意な方は是非ご覧下さい。お勧めは、もうひとつのノーベル賞「ライトライブリフッド賞」を2003年に受賞したエジプトの社会的企業「SEKEM(セケム)」のCEOヘルミー・アボレイシュ氏へのインタビューです(写真の手前がアボレイシュ氏。お隣はアル・ゴア氏)。
http://www.ifoam.org/partners/advocacy/Cop15_old_videos.html

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セケムは1977年から有機農業に取り組み、オーガニック食品やオーガニックコットン製品をエジプトで製造販売している環境配慮型のエコ企業です。セケムは持続可能な企業経営として地球温暖化防止のためにより低炭素排出型の「有機農業(バイオダイナミック農業)の実践や研究」を行い、生産に使用する電力のほとんどを「自然エネルギーに転換」するなど積極的な対応を行っています。「sekem_insight_85.pdf」をダウンロード

【有機農業と地球温暖化の科学的データ】
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IFOAMは、
「気候変動キャンペーン」に向けてふたつの新しい出版物をリリースしました。その目的は、有機農業が「気候変動の緩和と適応」および「食料供給の確保」において果たせる重要な役割について、多くの人に知ってもらうことです。このガイドでは、気候変動を緩和してそれに適応する”ことと“食糧安全保障”は分けて考えることはできないものであり、本来、有機農業がこれらの問題に対応できる性質を持っていると説明しています。もう一冊は、このことに関するアフリカでの研究事例を報告しています。

①『高隔離、低排出、食料確保の農業-有機農業:気候変動と食料安全保障へのガイド(HIGH SEQUESTRATION LOW EMISSION FOOD SECURE FARMING-Organic Agriculture a Guide to Climate Change & Food Security )』
http://www.ifoam.org/partners/advocacy/Cop15/IFOAM-CC-Guide-Web-1.pdf


②『アフリカでの気候変動への適応における有機農業の貢献(THE CONTRIBUTION of ORGANIC AGRICULTURE to CLMATE CHANGE ADAPTATION in AFRICA

http://www.ifoam.org/partners/advocacy/Cop15/IFOAM-CC-Adaptation-Web.pdf


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これらの出版物は、EC(欧州共同体)の環境総局やオランダの開発援助団体「Hivos」、スウェーデンの有機認証団体「KRAV」などからの経済的支援を受けて、アメリカの歴史ある有機農業研究機関「ロデール研究所」と、欧州を代表する研究機関「FiBL(スイス有機農業研究所)」などの協力を得て、IFOAM(EUグループ)がまとめました。この最新の研究レポートは、ロビー活動(アドボカシー活動)のための資料として活用されます。また、英国最大の有機農業団体ソイルアソシエーションも「有機農業の気候変動への貢献(二酸化炭素の固定)」についてのレポートを発表しています。http://www.euofa.jp/journal/archives/2009/12/post_309.shtml

スイス有機農業研究所(FiBL)】
http://www.fibl.org/en/homepage.html (英語)
【ロデール研究所】
http://www.rodaleinstitute.org/home (英語)

【有機農業で地球温暖化に対応して途上国の飢餓をなくす!】
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UNCTAD(国連貿易開発会議)事務局長のスパチャイ氏(2008年)によれば、世界の慣行農業は、農薬や化学肥料など石油由来の農業用資材に依存していまが、それに対して有機農業は、農場内と近隣の有機物質を循環させて活用し、生物多様性と自然環境を保護します。また土壌の肥沃度と土壌構造を改善し、保水性を高めて生産性を高めます。そして環境変化への対応力が高く地球温暖化にも適応できます。更に慣行農業より少ないエネルギーで生産し、炭素を固定する機能が優れているため、気候変動の緩和に寄与します。http://jona-japan.org/organic/organicnews/297

また、国連食糧農業機関(FAO)の2002年の報告書は、開発途上国で有機農業に関連する十分な技術指導を行い、これまで慣行栽培だった農場を有機栽培に転換した場合、うまくいけば従来の生産性を2倍から3倍拡大できると認めています。つまり、有機農業は開発途上国の「食糧安全保障(食料の確保)」に貢献できるということです。

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【日本と国連気候変動枠組み条約】
COP15が開かれているコペンハーゲンのベラセンターでは、「京都議定書第5回締約国会議(COP/MOP5)」も開催されているそうです。「京都議定書」は、法的拘束力を持って二酸化炭素など「温室効果ガス」排出量削減のための取組みを各国政府に初めて課した画期的な国際的議定書です。世界におけるCO2排出量を規制する国際法として重要な役割を果たしてきました。この議定書は、1997年12月に京都市で開かれた第3回の「国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP3)」で採択されました。

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【画期的な国際法:京都議定書(COP3)】
僕は、ちょうどこの時期にドイツのオーガニック農場で有機農業の研修を受けていたので、残念ながら日本や世界の環境NGOが京都で活躍した様子や、マスコミ報道が盛り上がった状況を知りません。でも、この会議を契機に日本の環境NGOと海外の国際NGOとのネットワークが広がり、日本でも環境NGOなどによる政策提言活動が活発になったことを当時から環境NGOで働く友人たちに聞きました(写真は1997年の「京都議定書(COP3)」会議)。

【世界で頑張る日本の環境NGO!】
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個人的な話しになりますが、僕が初めてIFOAMの「オーガニック世界会議」に参加したのは、コペンハーゲンで1996年の夏に開催された時でした。日本有機農業研究会の皆さんが企画された「オーガニック&エコロジーツアー」に参加させてもらい、金子友子さん(全国有機農業推進協議会理事長、金子美登さんの奥様)や日有研の大先輩方とドイツやオーストリアの有機農場などを視察させてもらいました。このときに僕は欧州のオーガニックにすっかり魅せられてしまいました。そのツアーでは風力発電や太陽光発電などの普及を進める「市民自然エネルギー研究所」なども訪問しました。今から考えれば、世界をリードするデンマークの「石油に頼らない再生可能なエネルギー政策」はすでに13年前の市民社会による取り組みから始まっていたんですね。

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その意味では、日本の環境NGOも頑張っています!現地入りしている日本の環境NGO「気候ネットワーク」によると、今回のCOP15では環境NGOから2人が気候変動枠組み条約の交渉プロセスでは初めて日本政府代表団に入ったそうです!政権交代を機に、NGOの要請を受けて実現したということですが、これが政策過程における市民参加の道を拓く一歩になるといいなと強く思います。COP参加者の臨場感溢れるリアルタイムの現地レポートなどもありますので、是非「気候ネットワーク」のHPをご覧下さい。http://www.kikonet.org/




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鳩山民主党政権の看板組織である「行政刷新会議」による「事業仕分け」が11月11日~17日、24日~27日の2回に渡って、独立行政法人・国立印刷局市ケ谷センター(東京都新宿区)の体育館で開催されました。民間の有識者など56人を含む計80人の「仕分け人」が3班(WG)に分かれて、各省庁の事業の担当官僚と激しい質疑応答を行いました。その結果は、対象項目ごとに「廃止」や「地方への移管」など見直しの方向性が判断されてその場で言い渡されました。多くの方もご覧になったと思いますが、この様子はニュース番組やワイドショーなどでも連日取り上げられましたし、ネットによる中継も行われて国民的な関心を集めました。http://www.cao.go.jp/sasshin/index.html

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「税金の無駄を排除すること」は、民主党のいわば最大の「公約(マニフェスト)」だったし、今回「事業仕分け」を行ったこと自体は画期的なことだと思います。これまでは、霞ヶ関と永田町の密室で決まっていた予算編成作業(概算予算の見直し作業)をメディアに公開して、公衆の面前で実施したことには歴史的な意味があるのではないかと個人的には考えています。

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そのことは、世論調査などでの7割を越す支持率が表していると思いますし、民主党による「政権交代」がなければ起こり得なかった「事業仕分け」は今年の流行語にもなりました。ただ、一方で「審議にかける時間が短すぎるのではないか?」「仕分け人はあの人でいいのか?」「本当に対象事業のことをよくわかっている人が仕分け人になっているのか?」などという疑問の声も上がっていることも事実ですし、報道を見た限りでは確かに少し荒っぽいなーという印象は正直受けていました。

【有機農業支援は廃止に?】
前置きが長くなりましたが、実は今回の「事業仕分け」で、有機農業の世界も大きな「横波」を被っています。苦節40年の悪戦苦闘の末に、2008年からようやくついた有機農業を推進する「有機農業モデルタウン事業」の予算わずか3億円が他のモデル事業などと共に「廃止」の宣告をされて風前の灯となっているのです。※行政刷新会議「事業仕分け」第3WG評価コメント(モデル事業)http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov24kekka/3-48.pdf

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「有機農業モデルタウン事業」は、2006年12月に超党派の有機農業推進議員連盟と有機農業セクターの協働による画期的な議員立法で「有機農業推進法」が成立したことによって昨年より実施されています。わずか3億円ですが、昨年からこの予算がついたことの意味はすごく大きくて、長年に渡って有機農業の広がりがなかった地域でも、この政策が成立して予算がついたことで各地に行政や農協も参加して「有機農業推進協議会」が設立されました。その数は全国で約60にまで増えて、本当にこの40年で初めて全国各地で有機農業が地方に拠点を持てたことで根付き始めているのです。以下のリンクは、2008年に設立された47の有機農業推進協議会がどんな活動をしているかを各協議会がシンプルにまとめた「オーガニックモデルタウン便り」です。いかにこのモデルタウン事業が地域での広がりをもって大きな成果をあげているかが、「関係者の顔が見える形」で紹介されいますので、是非ご覧下さい。
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/pdf/6_model_town_dayori.pdf

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有機農業推進議員連盟の事務局長で民主党参議院議員のツルネンさんによれば、「有機モデルタウン政策のポイントは、“全国段階で有機農業の参入促進・普及啓発に取り組むとともに、土づくりの推進を図りながら、全国における有機農業の振興の核となるモデルタウンを育成します”となっている。この取組には国からの支援が大きな役割を果たしている。地元の自治体からの予算がまだほとんどなく、支援が廃止になった場合、事業を縮小するしかない。それは、有機農業の推進が後退することを意味している。」ということなのです。2009年度は、緊急の経済危機対策予算も含めると全国で59のモデルタウンに最高で400万円を支援しているそうで、この予算でこれまでできなかった様々な取り組みが全国各地で実施されています。詳しくは以下の記事(第1回有機農業モデルタウン会議)をご覧下さい。http://organic.no-blog.jp/weblog/2009/08/post_fc6b.html

民間でやるべきことに予算がついているのならば削られて仕方ありません。でも、この予算は経済的にも社会的にもかなり辛い状況のなかで、長年、地域で歯を食い縛って環境に優しい有機農業を続けて、安全な有機食品を提供してきた生産者のための地域の受け皿というか「協議の場」を作るために機能し始めているとても貴重な予算です。具体的には、有機農業をやろうという新規参入の若手後継者の育成支援や、食農教育の実施、学校給食への有機野菜の供給体勢を支援するなど重要な役割を果たしています。この場ができて初めて、地域で有機農業のことを話すことができたという声も聞きました。

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日本の有機農業はこれまで40年近い間、国や行政からの支援は一切受けずにやってきました。2001年に有機認証制度となる有機JAS法が施行されましたが、表示の規制が法制化されたことはオーガニック(有機)食品に関する偽装表示を排除し、消費者と生産者を保護するために貢献したと思います。でも、この時にEUの農業環境政策のような有機農業への支援策は同時に導入されませんでした(以下は有機農業推進法に関するリンクです)。
http://organic.no-blog.jp/weblog/2009/07/4_aa9d.html

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EU(欧州連合)では、1992年の「農業環境政策」の導入により、農薬や化学肥料を使用しない有機農業は環境保全に貢献するとして、納税者の理解の下に国がその費用の一部を補助金として補償する「環境直接支払い制度」が導入されて、有機農業の飛躍的な発展に貢献してきました(予算規模は約300億円)。http://organic.no-blog.jp/weblog/2009/09/2007_a4df.html

一般的に言って、補助金に頼らなければ成り立たない産業は不健全だと思います。でも、これまでの慣行農業には様々な形で、相当の補助金や支援策が提供されてきたと思います。その意味で、安全な食材を提供し、土壌や地下水を汚染しない有機農業の発展を地域レベルで支援する有機農業モデルタウン事業は、有機農業推進法の理念に則った継続するべき事業だと考えます。http://www.aseed.org/agriculture/contents/menu01.html

これまで慣行農業に比べて手間とコストがかかる割にはリスクの高い有機農業に取り組んできた農家に対して、初めて国が差し伸べた支援の手であるこの予算を削ることは、例えて言えばようやく芽吹き始めた有機農業という樹木をその根元から切り倒すことにつながる可能性が極めて高いと思っています。この事業が始まったことで、地域の有機農業が本当にやっと動き出したところなのです(※神奈川県「あしがら農の会の仲間」さんのブログ)。http://blog.goo.ne.jp/sasamuraailand/e/a7de0e451e23f2cb26a6b0f406ef3031

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残念ながら、日本の有機農業はEU(欧州連合)やアメリカから15年、お隣の韓国からでさえすでに10年は遅れています。それなのに、今回の事業仕分けによって、ようやく、やっと少しだけ動き出した日本の有機農業の希望の芽を摘むことは僕は暴挙だと思いますし、大げさに言えば日本の将来の環境保全型農業の未来と安全な食品の供給に対して大きな損失になる恐れが強いと思っています。景気が低迷するなか、ただでさえ厳しい有機農業やオーガニック食品の市場を少しでも発展させるために、政策を決定する方には日本のかなり先を行っている世界のオーガニック市場の動向(2007年で4.6兆円規模に成長)も、是非見ていただきたいと思っています。
http://organic.no-blog.jp/weblog/2009/11/expo_biofach_ja.html

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【農業環境政策(環境直接支払い)の導入も】
個人的には、地球温暖化対策で思い切った政治主導の決断を見せてくれた“環境問題を重視する民主党”にはとても期待しています。その意味では、有機農業を含めた環境保全型農業の支援のために3億円を削るどころか、現行の「農地・水・環境保全向上対策(予算約300億円)」を組み替えてもらい、EUや韓国で有機農業や環境保全型農業が飛躍的に伸びる背景になった政策「農業環境政策(環境直接支払い):1992年~」を導入してもらって、地球温暖化防止にも貢献できる、環境に優しい、消費者においしくて安全な食材を提供する有機農業を一層支援してもらいたいと思っています(写真は英国で使われているドイツの低炭素排出型トラクター)。

※民主党のマニフェスト(民主党政策集「INDEX2009」)の「農林水産」政策には「直接支払いを通じた農村集落への支援」として以下の記述があります。http://www.dpj.or.jp/policy/manifesto/seisaku2009/15.html

日本の農村は、多様な農業の担い手が重層的に営農にいそしむことで、伝統文化や環境を守り、良好なコミュニティを維持するなど、多面的機能を備えています。こうした多面的機能は農業の担い手以外の国民全体が享受するものですから、多面的機能が維持・発揮されるよう農村振興策を講じます。具体的には、現行の「農地・水・環境保全向上対策」を抜本的に見直した (1)農村集落に対する「資源保全管理支払」 (2)環境保全型農業の取組に対する「環境直接支払」 (3)条件不利地域に対する「中山間地域等直接支払」―の三つの直接支払を、法律に基づく措置として実施します。なお、有機農業については「有機農業の推進に関する法律」に基づき、積極的な推進を図ります。

Cauj6vud_2環境先進国のヨーロッパでさえ、有機農業が全農地の4%(日本は0.18%:2007年)に成長するためには国による直接の支援が不可欠でした(僕が調べた範囲でEUは有機農業の支援に2002年の段階で約300億円を支出しています)韓国では同様の「親環境農業政策」という有機農業の支援政策を1998年に導入したからこそ、有機農業が全体の約0.65%(環境保全型農業は10%)にまで拡大したことは、多くの研究論文で紹介されています。それがあろうことか、はるかに遅れている日本で事態は逆の方向に動こうとしているのです。そこで、赤松農水大臣には是非この状況を理解していただいて、将来に禍根を残すような事態をなんとか避けてもらいたいと思っています。EUの「農業環境政策(環境直接支払い)」に関する情報は以下をご覧下さい。「eu_agrienvironmantal_policy2.ppt」をダウンロード

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【有機農業がいらないという訳ではない?!】
今回の事業仕分けで、本当に大事なタイミングで育ち始めたばかりの有機農業モデルタウン事業が「廃止」されると聞いて、かなりびっくりして、がっかりして、でも今こそ自分たちがしっかりしなくては!と思い直しました。そして全国の仲間たちに電話して、どうしたらいいと思うか相談しました。土と自然を相手に有機農業に取り組む生産者、有機認証業務に携わっている先輩たち、有機食品などの流通関係者、政治家の方々、政府で働く官僚の人やマスコミ関係の知人たち…。この尊敬する友人たちに貴重なアドバイスをたくさんもらいました。そして見えてきたのはこれまでの「大事な予算を切られる」という「被害者的な立場」から見えていたのとは少し違った風景でした。

それは、今回「廃止」を宣告された事業は「その事業が生み出す効果を不要と判断された訳ではない」ということらしいのです。つまり、今回の事業仕分けは「“有機農業が必要ない”と言ってる訳ではない」ということなのです。具体的には担当する行政サイドが、国が行うべき事業として、その事業の有効性(合理性)を説得力をもって詳しく「仕分け人」に(時間内に)説明できなかった事業が、その程度の必要性しかないのならこれまでのスキームを含めて「ゼロベースの見直し(廃止)」を求められたということのようなのです。ということは、(もしその機会が与えられれば)該当する事業(予算措置)が国にしかできないことで、行政効率に無駄がなく、効果も必要性も高いということを証明できた事業は「継続される可能性がある」のではないでしょうか?

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もちろん、大型の不況で税収が大幅に落ち込むことが必至な状況ですから、民間だけで十分にやれる事業や複数の財団などで重複して行われている事業などは廃止されても仕方がないと思います。また、例えば必要な補助金であっても、それを配分する財団(いわゆる天下り先)の人件費などがべらぼうに高い(行政効率が悪い)場合は、その組織の存続を含めていったんは「仕分け」られているようです。これらは本来の「行政刷新会議」の目的に適う措置だと思います(以下は事業仕分けの統括役を務めた枝野幸男さんのHPです)。http://www.edano.gr.jp/

5日の朝日新聞でも、仙石行政刷新担当相が今回の事業仕分けへの各業界や所管官庁からの反発を受けて、「公開で侃々諤々の議論する“仕分け第2幕”」について言及されています。もしそういう機会をもらえるのであれば、これをいい機会に政治や行政の担当者と更なる意思疎通を図って、有機農業モデルタウン事業の廃止を再検討してもらって、更には将来に向けてより本格的に有機農業や環境保全型農業を支援する政策の導入を検討してもらえるよう動いていきたいと思っています。

【「事業廃止の見直し」を目指す今後の流れ】
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現時点で、事業仕分けによる「予算復活」の可能性は大臣間の折衝(閣議)が残るのみという状態のようです。有機農業サイドでは、NPO法人「全国有機農業推進協議会(全有協)」を中心に、できるだけ多くの「市民の声(事業継続の要望書)」を集めて、全有協代表の金子美登さん(埼玉県小川町霜里農場)から赤松農水大臣にお渡し出来るように準備を進めています。具体的には、赤松農水大臣と有機農業推進議員連盟会長宛てに事業継続を要請する手紙を作って、一般の皆様にも賛同を募っています。「organic_model_town_paper_200912.pdf」をダウンロード

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消費者団体や流通団体にも要望書への連名の依頼をしており、大地を守る会やらでぃっしゅぼーや、ビオマーケット(約20万世帯)をはじめ生活クラブ生協連合会(約30万世帯)、パルシステム(約100万世帯)などもすでに賛同してくれています。消費者による有機野菜や安全で安心なオーガニック食品への需要は、不景気にも関わらず国内でも世界的にも伸び続けているのです。その供給者(有機農業)の発展を止めるべきではありません!(写真は全有協の金子美登さん)http://www.zenyukyo.or.jp/index.html

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もちろん、有機農業推進議員連盟も事務局長のツルネンさんを中心に積極的に動いて下さっています。事業仕分けの翌日11月25日には、有機農業推進議員連盟の第28回勉強会が開催されました。その場でも、会議に参加された議員の方々が「モデルタウン事業の継続」に向けて、引き続き働きかけていくことを表明されました。
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-d0ef.html

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最新情報によりますと、有機農業推進議員連盟には多くの有機農業関連団体や消費者団体、生協、流通関係団体などから「有機農業支援対策の継続」を求める要望書が届いているそうです。

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また12月1日に行われた農林水産省政策会議で、ツルネンさんは有機農業推進政策について支援の継続を求めて発言して下さいました。それに応じて、有機農業議員連盟の役員でもある山田農水副大臣は「有機農業支援対策の予算は、必ず復活させるよう復活折衝を行う」と力強い答弁をされたそうです(日本農業新聞)。http://tsurunen.cocolog-nifty.com/nikkann/2009/12/post-bf9a.html

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とは言え状況は予断を許しません。すでに各省庁には、科学やスポーツの分野でノーベル賞受賞者やオリンピックのメダリストたちを筆頭に、学術業界(大学)なども必要な予算を削られないように必死の陳情を行っていますし、最終的には国のお財布を預かる財務省との折衝になるからです。

まずは財務省に該当事業の行政効率に無駄がなく、その効果も必要性も高いということをしっかり証明することが重要だと思いますが、いずれにしても、どれだけ多くの市民(消費者・納税者)が、この事業を支持してくれているか(世論の後押しがあるかどうか)は、「事業廃止の見直し(予算復活)」に向けた大きなファクターになると思っています。

つきましては、以下に「有機農業推進政策支援の継続」の要望書の雛形をリンクしておきます。もし有機農業(環境保全型農業)を応援していただけるようであれば、大変にお手数ですが雛形の手紙の名前をご自分の(団体の)名前に変えていただき有機農業推進議員連盟宛てにメールか郵便でお送りいただければ本当に助かります。皆様のご協力をよろしくお願い致します。
「letter_for_the_organic_mps.doc」をダウンロード
「letter_for_the_agriminister.doc」をダウンロード

【メールの送り先】
有機農業推進議員連盟 宛て 
メール:marutei_tsurunen@sangiin.go.jp
TEL:03-3581-3111  FAX:03-5512-2235

【郵便の送り先】
〒100-8962 千代田区永田町2-1-1
 参議院議員会館235号室
 有機農業推進議員連盟事務局長  
 ツルネン マルテイ 様

※全国有機農業推進協議会 事務局
  TEL03-5799-6177 
  FAX03-5752-4371
  メール:info@zenyukyo.or.jp

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