IFOAM OWC 2014-1

2014年10月13日~15日にトルコのイスタンブールでで3年に一度の「オーガニック世界会議(OWC)」が開催されました。テーマは「オーガニックの橋をかける」。主催は、IFOAM(国際有機農業運動連盟)。80カ国から約900人が参加しました。オーガニックのオリンピックともいわれる「OWC」では、世界中で広がっている最新の有機農業や栽培技術、オーガニック食品などに関する実践や研究(持続可能な農林水産業や畜産業、商品開発、流通、販売促進やマーケティング、政策)について、各分野のリーダーたちが集まり、世界中からの参加者たちと情報や経験をお互いに共有します。気候変動(地球温暖化)の緩和や生物多様性の保全にも貢献する、健康で安全でおいしいオーガニックは190万人の有機農家による約6.5兆円の市場に発展して、アフリカや南米、東南アジアなどの小規模農家による持続可能な開発にも貢献しています。

http://organicnetwork.jp/biz/archives/1673

IFOAM OWC 2014

【PGS(参加型有機認証)とCSA(地域支援型農業)が話題に】グローバル・オーガニック・ネットワーク(Global Organic Network:GON)の報告によると、会議では、「PGS」と「CSA」が話題になりました。 「PGS(Participatory Guarantee System):参加型有機認証制度」とは、地域に焦点を当てた有機農産物等の品質保証システムです。信頼や社会的なネットワーク、生産者と消費者の交流の基盤の上に、消費者の積極的な参加活動に基づいて、有機農業の生産者を認定するものです。1990年代から実施され、アメリカや南米、インド、アフリカなど開発途上国を中心に近年急速に広がっている取り組みです。コストのかかる第3者認証制度が利用できなかった小規模農家がこの認証によって地域の市場でオーガニックとして販売できるようになった成功事例が数多く発表されました。

http://organicnetwork.jp/biz/archives/1673

IFOAM OWC 2014-2
【よみがえれ!ふくしま 有機農業のつどい宣言】「CSA(Community Supported Agriculture):地域が支える農業」は、日本では1980年代から「産消提携運動」として続いてきた、ローカルなフードシステム構築の一端を担うものとして期待されています。なんと、お隣の中国では高学歴の若者が農村部に招聘されて就農することがトレンドとなっていて、このような若者が始めたCSAが50-100に上るといいます。会議2日目の冒頭には、福島原発事故を受けてもなお、有機農業に取り組んでいる「福島県有機農業ネットワーク」の菅野正寿さんが参加されました。そして、「福島メモリアルスピーチ」として、2014年8月に福島の集会で採択された『有機よみがえれ!ふくしま 有機農業のつどい宣言』を紹介。菅野さんの言葉は多くの感動を呼びました。 

IFOAM OWC GA 2014-1

この「OWC」に続いて10月16日~17日で開催されたIFOAMの3年に一度の総会(GA)。総会では向う3年間の活動計画や執行部である世界理事会のメンバーが会員の投票で決められます。総会には40カ国から約300人が参加。そして日本からは「福島県有機農業ネットワーク」の菅野正寿さんも参加されました。2011年福島原発事故を受けて、動議「IFOAMは反原発・再生エネルギー促進に向かって行動する」を提出して採択されました。http://www.food-trust.jp/document/doc/0071.pdf

1972年にフランス・ドイツ・イギリスなど欧州の有機農業団体の連合体として設立されたIFOAM。欧州や世界の民間の有機認証制度を作ることにより、消費者のオーガニック食品への信頼性を高めることを通じてオーガニック市場を発展させてきました。現在、世界のオーガニック市場は6兆円を超えて1980年代から成長を続けています。IFOAMは、世界117カ国に約800団体のメンバーを持つ有機農業に関する唯一の国際統括組織です。国連社会経済委員会(ECOSOC)の諮問資格を持つ国際NGOで、有機農業に関する国連の会議などで世界の有機農業運動を代表して発言してきました。以下は、今回の総会で選出された世界理事会メンバーたちです。

http://www.ifoam.bio/

IFOAM OWC-3

今回僕は残念ながら参加できませんでしたが、総会で長年にわたりIFOAMの活動に貢献してきた個人を表彰する「感謝賞(IFOAM Recognition Award)」について、ヨーロッパを代表するスイスの老舗シンクタンクの「FiBL(フィブル:有機農業研究所)」からの報告をシェアします。世界の有機農業やオーガニック市場の最新の統計データ『有機農業の世界』を1990年代から毎年集計して出版してきたFiBL。は、IFOAMと二人三脚でオーガニックの発展に貢献してきました。そのために必要なデータを世界中のオーガニック関係者から集めて編集してきた責任者のヘルガ・ウィラーに「IRA」が授与されました。http://www.organic-world.net/

彼女と一緒に表彰されたのは、IFOAM創設期からのメンバーで頑固なことで有名な(笑)フランス有機農業連盟(とIFOAMの農家組織グループINOFO)代表のアントン・ピンチョン。 

IFOAM貢献賞2014(村山さん)

スウェーデンを代表する有機農業体KRAV創設者で前IFOAM理事長のグンナー・ルンドグレン。オランダの開発援助機関で、IFOAMのアフリカなどへの有機農業を通じた開発支援にファンドを出し続けてくれているHivosのウィリ・ドウマ。初期の頃からの会員で、エチオピアの持続可能な開発研究所で活躍するスー・エドワード。そして日本からは、長年に渡って有機農業の発展に尽力してきたIFOAMジャパンの理事長を務める村山勝茂さんが表彰されました!皆さん、数十年に渡ってIFOAMのメンバーとして、また世界の有機農業の発展に貢献してきたことが認められての受賞です。参加した多くの古くからのメンバーたちに祝福されての受賞式は(僕は2011年の韓国での総会で経験)、オーガニック(有機農業運動/IFOAM)のファミリーの一員として、とても温かい気持ちになる素敵なものでした。以下は、大会に参加された村山勝茂さんによるレポートです。
https://organicnetwork.jp/pdf/IFOAM_OWC2014.pdfIFOAM 40th 0

【IFOAM40周年と「ボン持続可能性の日々」】
2013年は「緑の党」で挑戦した参議院選挙で忙しく、IFOAM関連の記事を更新できませんでした。2年前の話ですが、2012年に「IFOAMの40周年」の節目を祝うイベント「IFOAM 40th Anniversary Celebrations」が本部のあるドイツのボンで開催されました。そのイベントと並行して、ボン市との共催で「Bonn Sustainable days(ボン市の持続可能性の日々)」と銘打った国際シンポジウムが世界各国からゲストを迎えて11月23日~28日の5日間にわたって開催されました。もう2年前になりますが、以下にその様子を報告します。実は、このイベントの前にドイツ緑の党からハノーバーで開催された第34回党大会(11月16日~18日)に招待されていました。この様子は以前のエントリーで紹介しましたが、その後に1997年秋からお世話になっているフランクフルトのオーガニック(バイオダイナミック)ファーム、ドッテンフェルダー農場で数日間を過ごしてからボンに来ました。
http://organicgreen.blog.jp/archives/1013751409.html

IFOAM SusCamp 149
僕が有機農業では世界を代表する国際NGOである「IFOAM(国際有機農業運動連盟)」の世界理事を務めたは、2008年の夏から2011年の秋まで。その翌年に開催された歴史あるIFOAMの40周年に参加できて、本当にうれしかったです。IFOAMの本部事務所とドイチェ・ポストを会場に開催されたシンポジウムでは、有機農業の普及によってアフリカの飢餓を大幅に減らした功績などにより「世界食糧賞」を受賞者したバイオビジョン代表のハンス・ヘレン氏や、オーガニックでは老舗で定評のあるシンクタンク、FiBL(スイス有機農業研究所)の所長、ウルス・ネグリ氏ら専門家たちが登場(ウルスとは世界理事を同期として務めました)。今後10年間のオーガニックの更なる発展のために「有機農業は、ただの農薬を使わない農業ではなく、地球温暖化の緩和や生物多様性の保全にも役立つ、サスティナブルで持続可能な取り組みである」ことをもっと社会や消費者に伝えるための基礎になる文書の最終的な詰めを議論しました。 

IFOAM SusCamp 147
その文書「The Best Practice Guideline for Agriculture and Value Chains(オーガニック農業とバリューチェーンにおけるベストプラクティスのガイドライン)」の内容について、世界中から集まった研究者やメーカー、オーガニック流通企業の経営者など実務家が議論を交わしました。この文書は、IFOAMとその関係者たちによる「持続可能な有機農業に関する行動ネットワーク”SOAAN”(Sustainable Organic Agriculture Action Network)」が2年の歳月をかけて策定しました。各テーマでの説明を受けて、参加者が意見を述べます。発言者は「フィッシュボウル(金魚鉢)」という議論の手法で、周りをテーマに関心の高い参加者に囲まれて発言します。今回も世界中から長年オーガニックに関わっているあらゆる分野からの参加者が熱い議論を戦わせました。
http://www.ifoam.bio/en/organic-landmarks/best-practice-guideline-agriculture-and-value-chains 

IFOAM 40 8
この文書には、農薬と土壌など栽培技術的なことだけでなく、使用するエネルギーのことなども規定されています。具体的には「最優良事例(ベスト・プラクティス)」として以下のことが示されています。『社会的側面:公平性と平等性』として「農家の適正な生活(レベル)、労働者の権利、ジェンダー(男女同権)、安全と衛生」。『エコロジー的側面:共通の資源と持続可能性』として「水、土壌と肥沃性、生物多様性、健康と動物福祉、大気(温室効果ガスと大気汚染)、エネルギー」。『経済的側面:流通から繁栄へ』として「投資、地域経済と経済的復元力、市場と流通、素材、汚染物質と廃棄物」。『文化的側面:創造性、革新性、統率力、利他主義および地域の安定と繁栄』として「個人の成長と地域の発展、食糧安全保障と食糧主権、製品の品質」。『説明責任の側面(透明性の高い行動、利害関係者の参加を促進)』として「全体論的経営、透明性と報告、参加」が定義されています。

IFOAM 40th 2
この中の「エネルギー」について規定されている文章の中で、「再生可能エネルギーを積極的に使う」ことは提起されていましたが、「原発」のことには触れられていませんでした。そこで僕は、2011年の福島原発事故を経験した日本から参加している者として、思い切って「原子力発電で作られたエネルギーはできるだけ使わないこと」という項目を追加することを提案しました。すると、この議論の責任者のディビッドが「マサヤが原発の提案をしてくれたけれど、我々は日本で福島原発の事故が起きたことは遠くで起きたこととして知っているけど、それがオーガニックセクター(農家と消費者)にどう影響しているか知らずにきた。サスティナビリティというからには知るべきことだ」と参加者全員に向けてしてくれました。そして参加者から「オーガニックと脱原発がつながった!」最近、原子力ロビーの巻き返しで原発を推進するような動きもあるけれど、「有機農業セクターとしては原発に反対するべきだ!」などと大きな賛同を得ることができました。これで、福島原発事故を契機にオーガニック業界を離れて、仲間たちと緑の党を設立して脱原発の実現のために奔走している自分が、この点でオーガニック業界に貢献できたことは、またとない幸せでした!
IFOAM 2 058
11月25日には、バスで参加者のみんなとボン大学の実験農場へ。IFOAMと25年以上に渡って協力関係にあるボン大学有機農業研究所のウルリッヒ博士が、有機農業の最新の状況などを説明してくれました。ヨーロッパはもとよりアフリカやインド、アジア各国から来た参加者たちは、熱心に博士の説明に耳を傾けていました。
IFOAM 2 060
IFOAMの本部は、国連キャンパスのすぐ近くにあるライン川沿いの公園の中にあります。その一角に、ドイチェ・ポストの本社ビルがあり、今回の「ボン・サスティナビリティ・デイズ」の会場としてセミナーホールを使わせてもらいました。そこでのセミナーは豪華ゲスト。エジプトの「砂漠の奇跡」と呼ばれる「SEKEM(セイケム)」の経営者ヘルミー・アボライシュ。 30年前には砂漠だった地域を、有機農業で緑の地域に変えたことでヨーロッパでは有名な会社です。その先進的な経営が評価されて、2003年には「もうひとつのノーベル賞」といわれる「ライト・ライブリフッド賞」も受賞しています。セイケムの製品は、オーガニックコットンをはじめ穀物や農産品など多種多様ですが、オーガニックの中でも老舗で評価の高い「デメター認証」を受けるバイオダイナミック(シュタイナー)農法と呼ばれる有機農業で栽培、生産されています。「これまで通りのビジネス(農業)じゃもうダメだ。」というプレゼンテーションも、偉大な実績を誇るヘルミ―が言うと説得力があります。

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会場からは「(所得の高いヨーロッパへの輸出だけではなく)なんで所得の低いエジプトで75%もの製品を販売できるようになったのか?」というもっともな質問が。ヘルミーは、①高付加価値の経緯で、利幅を圧縮してできるだけ一般の商品との価格差が少ないようにしたこと。②オーガニックというより「セケム」のブランド化に注力したことなどを教えてくれました。バイオダイナミック農業は別名シュタイナー農法ともいわれ、ルドルフ・シュタイナー博士が提唱した「人智学(アントロポゾフィー)」から生まれた農法です。子供とその芸術性を大事にするシュタイナー教育でも有名ですが、従業員を大事にしてその子弟や関係者のために大学まで設立するなどシュタイナー的な思想を背景に感じるセケムの経営方針について、いつかじっくり話を聞いてみたいと思いました。https://www.sekem.com/en/index/

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実は、今回の40周年イベントに参加できたのは、この1週間前にハノーバーで開催されたドイツ緑の党大会に招待してくれたベアベル・ヘーンさんを含めたドイツ緑の党の仲間たちのお陰でした。そのヘーンさんがIFOAM40周年イベントにスペシャルゲストとして来てくれたのもうれしいサプライズでした!しかも、ここボンが環境都市で有名なデュッセルドルフ(ケルン・ボン)を含む「ノルトライン・ウェストファーレン(NW)州」の一部だったこと。そしてNW州の(緑の党として初代の)農業・環境大臣がヘーンさんであったこと。そして、山奥の農場に併設されていたIFOAMの本部を、国際NGOの本部がひしめく国際都市ボンに移転するのを(国政レベルでオーガニックを推進したレーナテ・キュナスト元農水大臣と一緒に)サポートしてくれたのもヘーンさんだったことが判明して、びっくりするやらうれしいやら。ヘーンさんとのご縁の深さを改めて感じたイベントでした。

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ヘーンさんは、有機農業だけではなくオーガニック食品の流通(に伴う有機認証制度)が、どちらもオーガニック市場を伸ばすためには重要だから、その両方を(地域と国政レベルで財政的に)支援してきたことを報告。今後の提案として「太陽光発電など再生可能エネルギーとオーガニック」に関する会議をIFOAMと共同でやりましょう!と話していました。日本では、なかなか有機農業もオーガニック市場も成長していませんが、ドイツでは躍進しているオーガニックと、同じく緑の党がリードして急成長を続ける再生可能な「自然エネルギー」の会議をするなんて、もう羨ましすぎてため息がでてしまいそうです。でも、このグリーン経済の優等生でもあるエコロジーな2大産業を政策的にリードして急成長させてきたドイツ。こんなにいいモデルというか目標があるんだから、日本も頑張らないといけないと強く思った国際会議でした。
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IFOAM40周年の式典には、1972年以来の歴代IFOAM理事長たちも世界各国から参加しました。僕らが世界理事を務めた時の理事長は、キャサリン・ディマティオ(Katherine DiMatteo)。アメリカを代表するオーガニックトレード協会(OTA)事務局長も務めた実務派の素敵な女性です。様々な機会に、環境問題と有機農業を持続可能性(サスティナビリティ)というコンセプトで共に語る彼女のスピーチを聞いて感心&感動しました。現在は、アメリカのサスティナブルフードトレード協会の事務局長を務めています。一緒に写っているのは、ラウラ・モンテネグロ(Laura Montenegro)。アルゼンチンの有機認証団体ARGENCERTの代表で、彼女自身もベテランのオーガニック検査員でもあります。世界では、オーガニック業界でも女性が活躍しています。

http://www.sustainablefoodtrade.org/staff/
http://argencert.com.ar/sitio/

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ちなみに、最新の統計によると世界の有機農業家は2012年で約190万人。有機農業の面積は164か国で3千750万ha。世界のオーガニック産業の事業高は推定で約6.4兆円に到達!最も成長が著しいアメリカでは年10%もの成長をしているそうです(FiBL-IFOAMの2014年版統計より)。オーガニック貿易には、環境や開発に関していい面も悪い面もあるけれど、トータルでは断然プラスが上回ると信じています。日本でもドイツやフランスなど欧州諸国のように、政府が有機農業の支援やオーガニックの広報活動に関する費用を持つなど、財政的な支援ができる政治的な状況を早く作りたいと思っています。(以下のリンクから統計データが見られます)


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 s-IFOAM 2 100


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【Bonn Sustainable days 2012(ボン持続可能性の日々)】※映像
https://www.youtube.com/watch?v=p-cESYPFlqI

【IFOAM 40th Anniversary Celebrations(IFOAM40周年記念パーティー)】※映像
 内容:ボン市長のあいさつに始まり、長年に渡りIFOAMと協力関係にあるボン大学有機農業研究所のウルリッヒ博士による、有機農業は「生物多様性の維持と気候変動への対応に優れている」という有難いお話(笑)。そして、昔は地方の農場にあったIFOAM本部を国際NGOの本部がひしめくボンに誘致する援助をしてくれた、尊敬するドイツ緑の党副代表ベアベル・ヘーンさん(NRW州の元農業環境大臣)のコメントもあります!ドイツで躍進するオーガニック食品メーカー、ラプンツェル社とIFOAMが創設した「ワンワールド(オーガニック賞)」の紹介の様子なども。
https://www.youtube.com/watch?v=HirJaPKKpJU